今年1月、お笑いコンビ・オードリーの春日さんが東大受験に挑戦した。企画のスタートから受験までわずか半年間。結果は合格ラインに達しなかったが、厳しい条件下で勉強に邁進した春日さんに、称賛の声が上がった。春日さんと言えば他にも、持ちネタの「トゥース」、ボディビルのイメージがある。一方の若林さんは、春日さんのような突飛なことはしそうになく、穏やかな印象を持っていたが...
若林さんの最新エッセイ集『ナナメの夕暮れ』(文藝春秋)を読み、印象が変わった。若林さんの独特な感性が、切れ味のいい文体で表現されている。本人曰く、人見知り、考え過ぎ、人の目を気にする、自意識過剰で「生き方音痴」。その性格により、ちょっとしたことに疑問を持ち、憤りを感じ、自分と社会について思考を張り巡らせ、洞察する。冷たさやブラックな一面も垣間見える。
若林正恭さんは、1978年東京都生まれ。2000年、春日俊彰さんとお笑いコンビ・ナイスミドルを結成。その後、オードリーと改名する。ツッコミ担当。初めてのエッセイ集『社会人大学人見知り学部 卒業見込』がベストセラーになる。今年(2018年)、キューバへの紀行エッセイ集『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』で「斎藤茂太賞」(日本旅行作家協会主催)を受賞した(ともに株式会社KADOKAWA)。
本書は、第一章が雑誌「ダ・ヴィンチ」(株式会社KADOKAWA)2015年8月号~2018年4月号の連載、第二章が書き下ろしで構成されている。
第二章の冒頭、スターバックスで注文の時に「グランデ」と言えない話。「グランデとか言って気取っている自分が嫌だ」という気持ちはどこから来るのか? 「まず自分が他人に『グランデとか言っちゃって気取ってんじゃねぇよ』と心の内で散々バカにしてきたことが原因」。つまり「他者に向かって剥いた牙が、ブーメランのように弧を描いて自分に突き刺さっている状態」であり、「他人の目を気にする人は...心の中で他人をバカにしまくっている、正真正銘のクソ野郎なのである。その筆頭が、何を隠そう私である」。この「ブーメラン」の現象は、共感する人も多いだろう。
今年40歳になった若林さんは、自分のことを「おじさん」と書いている。年齢とともに、体力も悩むことも減っていき、「ネガティブはあり余る体力」と気づく。これまでのネタ作りは「自意識と自己顕示欲と承認欲求をベースに」してきたが、「自意識が創作の燃料として枯渇」したことで「新しいエネルギー」が生まれ、「40代でやるべき表現の初心を掴んだ手応え」を感じているという。
若林さんの柔和な印象と、痛快で鋭いエッセイ、そのギャップがいい。テレビ画面には映りきらない人間性が伝わる。生き方にもやもやを抱えていて、一般的な自己啓発本では解消できないと感じている人は、本書を読むと、気持ちがほぐれるかもしれない。
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