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幼いうちから英語・・・「二つの幻想」とは?

英語教育幻想

 この30年ほどの間に英語教育の強化が徐々に加速し2020年からは、大学入試で「4技能(聞く、話す、読む、書く)」を測るとして外部試験が導入され、小学校で英語が教科として正式にスタートする。「グローバル化への対応には英語が重要」「英語学習は幼いころからするべき」といった、以前から多く出された意見をいよいよ実現させようというものだ。本書『英語教育幻想』(筑摩書房)によれば、残念ながら、それらは「幻想」であり、実効は期待できなさそうなのだ。

日本人に深く浸透している英語めぐる10項目

 大学入試での新試験導入などの英語政策をめぐっては関連の出版も加速化傾向だが、新試験では民間の検定試験が導入されることなどを指摘してビジネス的な関与が強まることに懸念が示されている。本書では、日本人のなかに深く浸透している英語をめぐる「幻想」を10項目あげ、それが日本の英語教育にどう影響しているかについて述べたもの。

 著者は大学卒業後、公立中学・高校で英語教諭を務めたのち、カナダ・トロント大学で教育学博士号を取得。現在は同国ブリティッシュコロンビア大学教授として応用言語学を研究している。本書では「とくに批判的応用言語学の立場から、10の幻想について内外の研究の動向を踏まえて考察」を試みたという。

小学校教科化、効果期待しちゃダメ

 これまでは学校で初めて英語に接するのは中学校に入学してからだったが、2年後からは小学校で正式に英語の授業がスタートする。構想は30年ほど前からあり、当時の文部省(現文部科学省)の報告書では、児童の柔軟な吸収力などが外国語の習得に極めて適しているなどとしている。「柔軟な吸収力」は多くの人が認めるところで、そうした認識から「外国語を学び始めるのは早いほどよい」ということが一般通念となっている。

 著者は「はたしてこれは、実証研究によって証明されている知見なのでしょうか」と待ったをかける。母語以外の言語圏で自然に生活をする場合は別だが、学校の授業となると別という。それは「圧倒的にインプットとアウトプットの量が少ないから」。

 外国語習得と年齢の関係についての研究例をさぐると、主に欧州で外国語としての英語習得に関する研究が行われている。そのなかには、こんな計算例がある。「生後、自然環境で5年間ことばを習得するのは、外国語学習90年間に相当。週5時間の外国語授業を1年に200時間受けても、自然習得環境のなかでの言語習得(1日10時間とする)に換算すると3週間に匹敵するのみ」

 この計算を2020年からの小学校の英語に当てはめると...「5・6年生は年間70コマ、3・4年生は35コマの英語の授業を受ける、1コマは45分。自然習得環境に置き換えると、1年間でそれぞれ、5日と2日半ほどに過ぎない。中、高では時間数は5・6年の倍程度、10年間学校で勉強しても90日間」

 効果がないわけではないが、専門家らは「わずかな授業時間数に対して過度な期待値が設定されていることを問題視」している。

全部英語「イマージョン教育」が効果的

 学習開始年齢と習熟度との関連性は実証研究では証明されていないのだが、授業外の学習活動や短期留学にかける時間などとは有意な関係があることが分かっている。このことから、外国語ですべての教科内容を学ぶ、内容重視のプログラム「イマージョン教育」が効果的とされる。しかも、こちらは年少期から初めても思春期から始めても変わりない。日本の小、中学校での導入にはハードルが高そうだが...。

 幼少期の英語教育についてはこれまでにしばしば、母語、つまり日本語の力への影響を心配する意見が出されていた。これについてはカナダのバイリンガル教育研究者による「言語的相互依存仮説」により反証されており、母語影響論も「幻想」なのだ。同仮説はすでに、世界各地でおこなわれているバイリンガル教育の妥当性の根拠になっているという。この意味でも、英語教育は新時代に入ったというべきか。

 英語教育の政策をめぐってJ-CASTブックウォッチではこれまで「史上最悪の英語政策」「検証 迷走する英語入試」「TOEIC亡国論」「英語の気配り」などを紹介してきたが、いずれも、導入予定のプログラムには批判的だ。

  • 書名 英語教育幻想
  • 監修・編集・著者名久保田竜子 著
  • 出版社名筑摩書房
  • 出版年月日2018年8月 6日
  • 定価本体820円+税
  • 判型・ページ数新書・256ページ
  • ISBN9784480071569
 

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