「世界が絶賛する」とか「世界を制した」という枕詞で、日本を自賛する本が目につく。そんな中でも本書『世界が驚く日本の微細加工技術』(日経BP社)はクオリティが高い気がする。はっきり言って勉強になる。全体の論旨や説明方法が明確で、何よりも「エビデンス」が豊富だ。海外で翻訳されてもおかしくない内容ではないだろうか。
本書によれば、「ものづくり」は「素材」「部品」「商品」に分かれる。比率で言えば1:1:2の割合だという。この中で日本が強いのは「部品」だ。iPhoneの電子部品の50%は日本製と言われているほどだ。パナソニックは車載用部品で、ソニーはモバイル用画像センサーで業績を回復させたという。
なぜ日本の部品産業は強いのか。それは加工技術が優れているからだという。とくに「微加工」といわれる高精密分野においては世界一。しかも、こうした技術は大企業ではなく、中小企業が有しているケースが大半だという。いわば「町工場」が世界の最先端商品を担っているのだ。
現在、高精密製品分野をけん引しているのはスマホだ。絶え間ないモデルチェンジは、部品メーカーに対し、より微細で高性能な部品作りを強いる。こうした部品メーカーは世間的には誰もが知る大手メーカー。ただし、それぞれのメーカーは自社で使う工作機械までは自作していない。そこから先はさらに下請け化、外注されている。専門の中小企業が担うという図式だ。
本書は第1章「微細加工とは何か」、第2章「私たちの生活を変える微細加工技術」、第3章「微細加工技術を支える工具と工作機械」、第4章「失われた加工技術を取り戻せ」、第5章「世界が驚く日本の微細加工サプライヤー」に分かれる。
著書の船井総合研究所ファクトリービジネス研究会は、同研究所のファクトリービジネスグループに所属している。国内の中小部品加工業に対するコンサルティングを専門とするグループだ。2000社以上の部品加工業ネットワークを持つという。そうした日常の実績をもとに本書を著しているので具体例が豊富だ。
たとえば、「痛くない注射針」はなぜ痛くないのか。そのメカニズムとともに、それが生み出されるまでのヒストリーが記される。従業員6人の町工場が5年がかりで取り組んだという。こうした秘話はNHKの「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」や「プロフェッショナル 仕事の流儀」でおなじみだが、本書では現在進行中の話が盛り込まれているので、大いに興味をそそられる。
第5章「世界が驚く日本の微細加工サプライヤー」では「髪の毛より細いスプリングにメッキを実現」「0.05ミリの薄版を歪ませることなく溶接」など特殊技術に挑戦し続ける21社が紹介されている。社員30人とか50人の小企業。いずれも評者は初めて名前を聞く会社だった。
経済の話というと、アベノミクスとか財政再建とか、今一つピンとこないことが多いが、本書にはなぜ日本の中小企業が粘り腰なのか、その実例が満載だ。ビジネスマンだけでなく、学生などにとっても参考になる。とくに工業高校の図書館にはぜひともおいておきたい本だ。
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