1997年の神戸連続児童殺傷事件を犯した少年Aについては、薬丸岳の『友罪』(集英社)が今年(2018年)5月に映画化されるなど、20年以上経過した現在も私たちの関心を集めている。窪美澄の本書『さよなら、ニルヴァーナ』も少年Aのその後をテーマにした小説だ。15年に文藝春秋より単行本として刊行され、今年8月に文庫化された。
極めて凄惨な事件を、中学3年生の少年が犯したというニュースが、私たちに与えた衝撃は計り知れない。更生期間を経て社会に出た少年Aが、どこかで生きていることを想像し、その詳細を知りたいと思う人は多いだろう。
作家志望の34歳の女性は、東京での仕事を辞めて実家に帰り、家族の面倒を見る生活を送る。妹から「少年Aがこの町にいる」との噂を聞き、「少年A」の情報収集を始める。驚くべきことに、ネット上には少年Aをアイドルのように崇めるサイトが見つかる。初めは理解できなかったが、少年Aの美しい顔写真を見た途端、恋をしてしまう。少年Aに恋する女子高生は、アイドルの追っかけと同じく、少年Aが生まれ、事件を起こした町の「聖地巡礼」の旅に出る。少年Aが殺した7歳女児の母親は、ネットで少年Aが崇められていると知り、少年Aと直接会って話したいと思うようになる。
3人の女性それぞれが、少年Aと接点を持つために動き出し、静かに暮らす少年Aの周りがざわつき始める。個々のストーリーが次第につながっていき、登場人物たちのバラバラだった4つの点が1本の線になる。
「Aは人間の中身が見たくて、七歳の子どもを殺した。...私も中身が見たいのだ。...顔は笑っていても心の中で渦巻いている、言葉にはできない思いや感情。皮一枚剥がせば、その下で、どくどくと脈打っている何か。...そういう意味では、私とAは同志なのだ」タイトルの「ニルヴァーナ」は、仏教用語の「涅槃」(永遠の平和、最高の喜び、安楽の世界)を意味する。作家志望の女性は、少年Aをテーマにした作品で念願のデビューを果たすが、叶えた夢を継続させなければならない地獄の日々が始まる。しかし、少年Aや女児の母親が味わった地獄には到底及ばず、もっと地獄へ下りていこうと誓う。少年Aの凄惨な犯行の描写を含めて、作品は終始緊迫した雰囲気が漂う。
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