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新庄剛志は「天然」じゃなかった! 「野村監督以上に考えて行動」

わいたこら。

 本書『わいたこら。』(学研プラス)は、米大リーグでもプレーした元野球選手、新庄剛志の自伝。題名の「わいたこら」は、虚を突かれたときに発する九州弁の言葉という。「なんじゃこりゃ」という意味に近いとか。新庄といえば、阪神時代の敬遠球サヨナラ安打、大リーグでは日本人メジャーとして初の先発4番起用と、記録より記憶に残るパフォーマー。「なんじゃこりゃ」的なプレーでスタジアムを沸かせたものだ。

ファンはそれらのパフォーマンスは、新庄がいわゆる「天然」であるがゆえの産物かと思っていたが、自伝の本人の弁によると、ほとんどすべてが計算して披露されたものという。

周到な準備で実行した敬遠球打ち

 まさかの敬遠球サヨナラ安打を放ったのは、新庄がプロ10年目を迎えた1999年のシーズン。「あれは、その場の思いつきでプレーしたと思っている人も多いけど、僕は何でも計算して、準備してからやっている」と新庄。この年の阪神は、前年までヤクルトを指揮した野村克也氏を監督に迎え低迷が続くチームの再建を託していた。

 6月22日、甲子園での巨人戦。阪神は4-4で同点の延長12回裏、1死一三塁で新庄が打席に。投手の槙原寛己の顔には「新庄ごときになんで敬遠?」という表情が出ていたという。「サインに従うのが嫌だったのだろう」。新庄は2日前の別カードの試合で似たような敬遠の場面を経験。「これ、打とうと思えば打てるんじゃないか?」と考え翌日の練習で、高めの球を打ち返すバッティングを反復。敬遠球を打つイメージをつかんでいたという。

 すぐにそれを実行する場面がめぐってきた。野村監督からは事前に了解を取り付け、打撃コーチに相談して最初はホームベースから離れて立てとのアドバイスをもらっていたという。敬遠が不本意な槙原の1球目は中途半端に外した球。これを見て2球目の前に少しベースに近づき、投球と同時に踏み込んでたたきつけると打球はレフト前に抜けていった。

「新庄は頭が悪い」といわれるのも計算済み

 この記憶に残る敬遠球サヨナラ安打も野村監督が了解してゴーサインが出されたように、新庄と同監督との仲は良好だったという。「僕は野村監督が好きだった」と新庄。世間では当時「野村ID」と「新庄の天然」ではどうみても相性が悪いだろうと受け取っていたものだが、新庄に言わせると「はっきり言って、僕は野村監督以上に考えて行動するタイプの人間」。つまり監督とは同じ種類であり合わないわけがないということだ。

 「最初に野村監督に会ったとき、いろいろ話をしてくれた」が、30分ぐらいたったところで新庄は「いっぺんに言われるとわからなくなるので、また今度にしてください」と打ち切った。スポーツ紙に「新庄は頭が悪い」と書きたてられるのは計算済みだったという。なぜ?

 「一度に監督の話を聞いてしまうと、監督と話すチャンスがなくなってしまう。ちょっとずつ何回も話すチャンスをつくれば、いろんなことが聞けるんじゃないか、と」

 そして「僕はとことん、計算して動いていたんだ」とダメ押しのひと言を加えた。

金銭トラブルは計算できず

 新庄は敬遠球打ちなど予想外のプレーでファンを魅了し「なんじゃこりゃ」といわせ続けた。また、天然ぼけとみせかけ実は用意周到に(?)立ち回り球団関係者らを驚かせ「なんじゃこりゃ」と混乱させることがしばしばだった。ところが引退後は、気楽な暮らしを脅かす出来事に新庄が「わいたこら」の声をあげることになる。

 プロ入り後しばらくしてから選手報酬などの収入をすべて、母親の勧めもあって信頼できる人物に預けており、その総額は20億円ほどになっていたという。新庄は数年前からインドネシア・バリ島に住まいを移しているのだが、移住を決意した際に、この人物に金の返却を求めたところ、同人物は新庄からの預かり金をリーマンショックで傾いた自分の事業に流用し、残りが2200万円ほどだったことが分かった。

 その人物との詳しい関係や、法的手続きがあったのかなどに触れられていないが、いくらかは回収したものの、ほとんどについて泣き寝入りしたらしい。野球と違って、お金の管理は「とことん計算」するには至っておらず、任せきりを反省する。

 しかし、そんなトラブルに見舞われても現役時代と同じく屈託がない。

 「スーパースター・新庄剛志の物語は、まだプロ野球選手として成功したエピソード1と、金銭トラブルでしくじったエピソード2が終わっただけ。今、僕はエピソード3の途中を生きている。本当に面白いのは、これからだ」

 敬遠球サヨナラや、野村監督との関係以外にも、大リーグ、日本ハムでのことも含めて、現役時代の裏話も数多く、プロ野球ファンには「わいたこら」と楽しめる一冊。BOOKウォッチでは、日本ハムでの新庄の弟分だった森本稀哲の自伝『気にしない。』(ダイヤモンド社)も紹介している。

  • 書名 わいたこら。
  • サブタイトル人生を超ポジティブに生きる僕の方法
  • 監修・編集・著者名新庄 剛志 著
  • 出版社名学研プラス
  • 出版年月日2018年9月18日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784054066236

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