ほしおさなえの『活版印刷三日月堂』シリーズ(ポプラ社)は、2016年から刊行され累計20万部を突破。シリーズ完結編となる4作目『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』が、今年(2018年)8月に刊行された。同月に刊行された本書『菓子屋横丁月光荘 歌う家』(角川春樹事務所)は新シリーズ第1作であり、舞台は『活版印刷三日月堂』と同じ埼玉県川越市だ。
川越は「小江戸」と呼ばれる人気の観光地。池袋から電車で30分と、都心からのアクセスもいい。「川越」とネット検索するとたくさんの観光情報を得られて、町の活気が感じられる。本書のタイトルにもなった「菓子屋横丁」は、川越の有名な観光スポットの1つ。明治の初めから菓子を製造していて、関東大震災で被害を受けた東京に代わり駄菓子を製造供給するにようになり、昭和初期には約70の業者が軒を連ねていた。戦後は物資が不足して工場も廃業したが、1980年代に町づくりの一環で「菓子屋横丁」と名前をつけ、駄菓子の小売店の横丁を作ったという。現在は20数軒の店舗があり、駄菓子、パン、コーヒー...などを楽しみながら情緒豊かな町並みを散策したくなる。
そんな「菓子屋横丁」の一角にある、築70年の古民家「月光荘」。そこで住みこみの管理人を任された大学院生・遠野守人は、子どもの頃から家の声を聞く力を持っている。家の声を聞き、家の歌を聞き、家と会話もできる。「月光荘」からは「人なつっこい雰囲気」の声が聞こえるという。
守人は早くに両親を亡くした。守人にとって家も家族であり、両親と一緒に住んでいた所沢の家が取り壊された時、自分と両親の生きていた時間が根こそぎ消えてしまった気がした。父のことをよく思っていなかった父方の祖父に木更津で育てられ、家族というものに複雑な感情を抱いていたが、川越の古きよきものに触れ、人々と交流することで、家と家族にまつわる自分の過去と向き合い、守人は生きることに前向きになっていく。
ほしおさなえは、1964年東京都生まれ。作家、詩人。95年「影をめくるとき」で群像新人文学賞優秀作受賞。本シリーズ2作目への意気込みについて、「商売っ気のある人物を出したりして、活気のある、生き物としての町を描けたら」とインタビューで語っている(『ランティエ』2018年10月号より)。
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