三日月堂は、川越に昭和初期からある古い印刷所で、活版印刷を営んでいた。店主が亡くなり、しばらく空き家になっていたが、孫の弓子が越してきて、残っていた印刷機を再び動かし始めた。三日月堂へ来るお客は、それぞれに悩みを抱えている。お客が想いを言葉にして、弓子は活字を拾い、刷り上げていく。
本書は、「世界は森」、「八月のコースター」、「星たちの栞」、「ひとつだけの活字」の4つの物語で構成されている。大学進学とともに家を出る息子へ、母が送るレターセット。昔の恋人の記憶を辿り、喫茶店店主がつくるコースター。『銀河鉄道の夜』をイメージして、高校文芸部が壁面を夜空に見立てて貼る栞。祖母の遺品の活字セットで孫がつくった、結婚式の招待状。
「多くの人の心のなかにとどまる。人生を変えることもある。一生心に残ることもある。言葉とは不思議なものだ」
「文字が刻印されることで、その紙に人の言葉が吹き込まれる。言葉を綴った人がいなくなっても、その影が紙のうえに焼きついている」
「生きているものはみなあとを残す。人と人もそうだ。かかわりあえば必ずあとが残る」
活版印刷という昭和の記憶を舞台装置に、家族、恋人、友人、婚約者たちが、ピンセットで一本一本の活字を拾うように、それぞれの想いをつづる。言葉を丁寧に捉えて、真摯に向き合っている作品だ。
本書『活版印刷三日月堂 星たちの栞』(ほしおさなえ 著、株式会社ポプラ社、2016年)は、シリーズ第2弾『活版印刷三日月堂 海からの手紙』(2017年2月)、第3弾『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』(同12月)も発行され、計15万部のヒットになっている。
著者のほしおさなえは、1995年『影をめくるとき』が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』で第12回鮎川哲也賞最終候補。『空き家課まぼろし譚』『みずうみの歌』のほか、『ものだま探偵団』シリーズなど、児童書も手がけている。
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