銀行を定年でやめた60代男性の生き方を描いた、内館牧子さんの小説『終わった人』は映画化され、主人公を演じた俳優舘ひろし(68)が、モントリオール世界映画祭で最優秀男優賞を受賞し、話題となっている(2018年9月)。内館さんの筆はさらに先鋭化し、新作『すぐ死ぬんだから』(講談社)は、70代後半のおしゃれな女性が主人公になった「終活」をテーマとした小説。いくつになっても見た目は大事だという著者の主張が込められている。
東京・麻布の酒屋の二代目、忍岩蔵と一緒になったハナは一生懸命に働き店を盛り立て、78歳になった今は引退し、息子に店を任せている。銀座に出かける時は、3センチのハイヒールを履き、おしゃれにも余念がない。シニア向け雑誌のグラビアにも登場するほどだ。高校の同期会に10年ぶりに出ると、級友たちはバアサンくささに磨きがかかっている。男も女も帽子にリュックというスタイル。ハナはひそかに優越感を感じている。
ひとつ年上の岩蔵は、折り紙が趣味の穏やかでまじめな男だ。「お前は俺の自慢だよ」が口癖の愛妻家でもある。息子の雪男の嫁、由美だけが頭痛のタネだ。趣味の油絵にのめりこみ、画家気取りで商売の手伝いはいっさいしない。ジャージ姿で貧乏くさく、ハナにも平気で口答えする。二人の対立がピークに達したころ、転倒して頭を打った岩蔵が2か月後に突然息を引き取る。それから修羅場が始まる。
夫の死後、生きる気力がなくなり、この世になんの未練も執着も感じなくなったハナ。夫の追悼折り紙展を開こうかと思いたったある日、夫の遺品から見知らぬ若い男の写真が出てくる。夫にはなにか秘密があったのか......。
「人生百年時代」の到来と言われるようになり、80代、90代をどう生きるかが問われるようになってきた。著者はあとがきで、「どうせすぐ死ぬんだから」という免罪符は、無精者の「葵の御印籠」なのだ、と非難する。「自分が自分に関心を持っていること」の大切さを説く。
本書でも最後にハナは見事にひと花咲かせようとする。老後が問題になるのは男性ばかりではない、女性も自覚をもってという著者のメッセージが伝わってくる。
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