読むべき本、見逃していない?

上司がやるべきことはコレだった!

決定版 部下を伸ばす

 経営評論家の佐々木常夫さんと言えば、自閉症の長男とうつ病を患った奥さんを抱える多難な家庭生活のかたわら、同期トップで東レ取締役となり、東レ経営研究所社長となった猛烈サラリーマンという印象を持っていたが、新著『決定版 部下を伸ばす』(角川新書)を読んで、認識を改めた。合理主義者でありながら、部下思いの人情派でもある。「こんな上司の下で働きたい」と思わせる、その仕事哲学のエッセンスとは。

 佐々木さんにはロングセラーとなった『決定版 上司の心得』と続篇『決定版 出世のすすめ』があり、本書は佐々木さんの会社学集大成の第3弾。

 東大経済学部を卒業して東レに入った佐々木さんだが、仕事熱心とは言い難い新人だったという。「仕事にやりがいを覚えるようになったのは課長になってから」と書いている。部下を育て、組織の力を最大化し、大きなプロジェクトをやり遂げる、価値ある仕事と考えたからだ。

 タイトルは「部下を伸ばす」となっているが、本書は新人が読んでも参考になる心得に満ちている。東レ時代、佐々木さんは部下に「礼儀正しさひとつで、この会社の役員になれる」と言っていたが、誇張ではないという。「礼儀正しさ」とは、「時間を守る」「きちんと挨拶する」「お世話になったときはお礼を伝える」「相手の話をよく聞く」といった人として守るべきモラルである。「礼儀正しさはコミュニケーションの潤滑油であり、礼儀正しくあることで、リーダーは組織に好循環をつくり出すことが可能になる」と説く。

 さて、上司として部下にいかに接するのか。本書の小見出しをいくつか抜き出すだけで参考になる。「部下の昇格には、全力を注げ」。佐々木さんは昇格審査の1年前から準備を進め、他の部署に後れをとらないようにしたという。上司には部下の実績をアピールし評価を上げる材料とし、人事部には積極的に部下の情報を提供し、昇格の念押しをした。部下にとって「昇格」は最大の関心事。根回しが大事だということだ。

仕事のマニュアルを共有せよ

 「マニュアルを共有しなさい」。39歳で課長になった佐々木さんは「仕事の進め方10カ条」をつくり、以後どの職場に移っても、それを配布し、部下にも遂行を求めたという。5つだけ紹介すると。

① 計画主義と重点主義 すぐ走り出してはいけない
② 効率主義 最短コースを選ぶ
③ フォローアップの徹底 業務遂行の冷静な評価
④ 結果主義 仕事は結果で評価する
⑤ シンプル主義 事務処理、資料などはシンプルに

 佐々木さんのポリシーは実に合理的だが、それは3人の子どもの育児と奥さんの介護、さらに大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建など、時間がいくらあっても足りない中で、仕事と組織の効率化を図らなければならなかったからだ。「家族を思うことが部下を思うことにつながっていくことを感じるようになり、部下と向き合うスタンスも変わっていった」とあとがきで明かしている。

 佐々木さんの読者が多いのは、こうして家庭と仕事を両立させたことと東レという会社にいた説得力だろう。戦後の一時期優秀な学生は東レをはじめとした繊維企業にこぞって入社した。ところが繊維産業が構造的に傾く中で、東レは「お荷物事業」と言われた炭素繊維事業を世界トップシェアの中核事業にまで成長させ、生き残り、経団連の会長まで生み出すようになる。

 佐々木さんは「選択と集中」という経営のセオリーを鵜呑みにしていたら、東レは会社の礎を失っていただろう、と書いている。同様に部下とのコミュニケーション、人間関係にもセオリーはないという。個々に真摯に向き合うことが基本だと説いている。

 ところで、佐々木さんが上司だったころとは昨今、様相が変わりつつあるようにも思う。組織のフラット化とかで、部下に配分するポストが激減しているのだ。管理職にとっては組織の運営、部下の操縦がいちだんと難しくなっている。   

  • 書名 決定版 部下を伸ばす
  • 監修・編集・著者名佐々木常夫 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年8月10日
  • 定価本体820円+税
  • 判型・ページ数新書判・204ページ
  • ISBN9784040821801

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