最近は古墳や遺跡を上空からドローンで撮影するというのが流行っているそうだ。本書『古墳空中探訪 奈良編』(新泉社)もそのたぐいかと思ったが、ちょっと違った。セスナ機で飛んで撮影している。
ドローンとの違いは、いくつかある。まずプロの写真家が撮影していること。さらに1970年代から撮りためてきたこと。上空から見た古墳や周辺の経年変化がわかるから貴重だ。
撮影しているのは写真家の梅原章一さん。1945年生まれ。専門学校で写真を学び、スタジオや航空写真のプロダクションを経て独立した。70年代から古墳の空撮を始め、これまでの飛行回数は数え切れず。多数の古代史関係の研究書などに写真を提供し、2000年にはすでに『空から見た古墳』(学生社)を出版している。
いつも大阪・八尾空港から出発する。セスナ機は4人乗り。翼が座席の目線より上部についているため写真撮影には好都合な航空機だ。パイロットは前の座席の左側。梅原さんはその後方。機材の大判カメラなどは前部右側の座席に置く。
上空でも撮影用の窓は開けっぱなし。「風が心地よい」などと書いているが、素人なら心臓が凍る。評者はヘリや小型機に乗ったことがあるが、二度と乗りたくない。大型機に比べると不安定だからだ。ところが梅原さんは、古墳を真上から写すときは、機体を左70度まで傾けるというから、ますます生きた心地がしない。「強力なGを感じながら真下に古墳と対面し、シャッターを切る」と、こともなげに撮影状況を語っている。
おおむね高度800~1200フィートの上空から撮影している。古墳の全体像が周辺の地形や田畑、池、川、人家と一体になってよく把握できる。奈良盆地は東西約15キロ、南北約30キロ、そこに日本の古代史のカギを握る纏向古墳群、とくに箸墓古墳など有名な前方後円墳や遺跡が千数百年にわたって静かに息づく。歴史好きにはたまらない空間だ。
古墳が大量に造られた「古墳時代」はおおむね、3世紀半ば過ぎから7世紀末頃までの約400年間を指す。縄文、弥生の後に登場する時代だ。
そのころの日本列島については、よくわからないことも多い。したがって、古墳にロマンを感じる。いったいどうやって造り、誰が埋葬されているのか。
奈良盆地の古墳が、他の地域と決定的に違うのは、古墳時代の末期が、次の飛鳥時代と重なることだ。ほぼ同じ場所に、古墳を造った人々と、その後に政権を握り、日本列島を統一した人たちがいた。どんな関係だったのか。
例えば法隆寺は7世紀の創建とされ、大化の改新は645年、高松塚古墳は7世紀末から8世紀初頭のものとされている。同時並行で国づくりと、古墳造成が行われていた。また、最近の研究では朝鮮半島にも、日本特有の前方後円墳があり、日本ルーツということが確実視されているそうだ。本欄では『古代韓半島と倭国』 (中公叢書)で紹介した。朝鮮半島とはどんな往来があったのか。
本書をながめながら、そうした古代史の世界にタイムスリップするのも楽しい。万葉集には「天翔ける」という言葉が出て来る。神々や霊魂が天空を駆け巡っていることだ。自由自在に地上を俯瞰する本書を見ていると、そんな気分にも浸れる。地元の人ならもっと現実的に、自分の家が写っているか、探してみるのも一興だろう。古墳の近くにある自宅を平面で横から見るのと、上空から眺めるのとではまた趣が違う。
本書と同時に『古墳空中探訪 列島編』も刊行されている。奈良以外の人も、手に取ってみると「我が家」が見つかるかもしれない。
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