反戦を訴えた歌を世界中から集めて紹介する。あまり見かけなかった本のような気がする。『反戦歌--戦争に立ち向かった歌たち』(アルファベータブックス)。
「反戦平和」の時代は遠くなりにけり。いまどき、「平和」はともかく「反戦」などと言うと、過激派やサヨクのレッテルを張られかねない。そんな時代に何でまたこんな本が出版されたのか。
てっきりその筋の関係者が書いた本かと思いきや、そうではない。著者の竹村淳さんは音楽ジャーナリスト。それもラテン音楽の専門家のようだ。1981年から2005年にかけてNHK-FMでラテンアメリカとカリブ音楽のDJをつとめてきたという。さらにはNHK文化センターや立教大学で講師も。現在は東京・目黒で月一回「ラテン音楽パラダイス塾」を開講。著書に『ラテン音楽パラダイス』『ラテン音楽名曲名演ベスト111』などがある。その方面には疎いので、お名前は存じ上げなかったが、要するに「ラテンどっぷり」。そんな人がなぜ「反戦歌」なのか。
ところが、である。竹村さんはなかなか性根が座っているのだ。1937年生まれというから81歳。かすかに戦争を知る世代だ。実際、父上は戦争末期に中国で地雷に触れて31歳で落命。竹村さん自身は苦労して早稲田大に進む。入社試験では数社の筆記試験に受かったが、親がいないということで面接で落とされた悔しい経験を持つ。「誰のせいで親がいないのか、ふざけるな!」。その怒りは今もふつふつと竹村さんの腹の底で燃えたぎっている。
本書執筆のきっかけは、昨今の政治情勢だ。2015年に安保法制、17年に共謀罪。「不届きな連中を見るにつけ・・・世界中の反戦歌について書こうと思い始めた」。音楽の力を借りて注意喚起したいと思うようになったのである。
竹村さんが「安保法制」のデモや集会に行った人かどうかは明らかではないが、反対運動に触発されたことは間違いない。
「ラテン」については専門家。しかし「反戦歌」についてはそうではない。ネットや、過去に発売されたレコードなどを頼りに、調査研究を続けた。本書に登場するのは、日本はもちろん、アメリカ、フランス、スペイン、ベトナム、チリ、アルゼンチン、イスラエル、イランなどの23曲。わざわざ自身で訳した歌詞もいくつかある。世界的に知られる反戦歌では「花はどこに行った」が有名だが、あえて同時期の「脱走兵」を紹介するなど、随所に著者の音楽通としてのこだわりも感じられる。
それぞれの選曲理由や解説がとにかく詳しい。日本の曲もいくつか登場するが、ここでもあえて岡林信康、高石友也、高田渡と言ったフォーク世代を避けている。きわめて力を入れて書き込んでいるのは「一本の鉛筆」(松山善三作詞)。歌うのは美空ひばりだ。
「一本の鉛筆があれば 私は あなたへの愛を書く 一本の鉛筆があれば 戦争はいやだと 私は書く」
1974年、第一回広島音楽界のステージ。ひばりはこの歌を歌う前に、「私は横浜に生まれました。幼かった私にもあの戦争の恐ろしさは忘れることはできません。これから二度とあのような恐ろしい戦争が起こらないよう、皆様とご一緒に祈りたいと思います」と語ったという。ひばりは8歳のとき、1万人近い犠牲者を出した横浜大空襲を経験している。竹村さんは、ひばりが、亡くなる前年の88年の第15回広島音楽祭にも、体調悪化にも関わらず駆けつけ再びこの曲を歌っていることを紹介している。
このほか、「もずが枯木で」については、石原裕次郎の歌ったレコードが一番良いと推す。前出の「脱走兵」の日本語バージョンでは沢田研二の歌を紹介している。
「反戦歌」というと、堅苦しいが、ひばりや裕次郎やジュリーも歌っていると聞くと、お茶の間でも市民権を得る。それだけ一世代前の日本人にとっては、「戦争」が他人事ではなかったということだろう。大半の歌についてCD版やyoutubeの丁寧な案内も付いているので、簡単に聴くことができる。そうして多くの人に反戦歌を改めて知ってもらい、その精神を受け継いでもらいたい、というのが著者の願いなのだろう。本書を戦争で早世した父に捧げる、としている。
本欄では、映画と反戦をテーマにした『反戦映画からの声』も紹介ずみだ。
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