スウェーデンのミステリー小説「ミレニアム」シリーズが世に出て10年余になる。第1作の本国での出版が2005年。世界各国でベストセラーになり日本では08年に出版された。本書(第5部)が最新作となり、本国で2017年9月に、日本では同年12月にそれぞれ出版された。
「ミレニアム」シリーズには少しややこしい背景がある。
全5部のうち、初めの3部作(第1部(「ドラゴン・タトゥーの女」、第2部「火と戯れる女」、第3部「眠れる女と狂卓の騎士」)と、あとの2部作(第4部「蜘蛛の巣を払う女」、第5部「復讐の炎を吐く女」)は作者が違うのだ。
3部作の作者はスティーグ・ラーソン。1954年生まれ。ジャーナリスト出身で、雑誌編集長などをつとめつつ2002年ごろから「ミレニアム」の執筆を始めていたという。
この3部作はスウェーデンで2005年から07年にかけて出版され、大ヒットした。作者のラーソンは3部作を完成させ出版契約を結んだものの、04年11月に急死(享年50)。出版後の大成功をみることなく、他界してしまった。
しかし、3部作の出版社は「ミレニアム」シリーズの継続を決定。ベストセラー作家のダヴィッド・ラーゲルクランツが描き続けることになった。ラーゲルランツによるのが、第4部「蜘蛛の巣を払う女」、そして、第5部の本書である。
推理小説のシリーズものといえば、頭に浮かぶのが「新宿鮫」シリーズだが、長寿のわけはやはりシリーズ全体の柱となる主人公の魅力だろう。「ミレニアム」ではこの魅力が強烈である。
主人公は2人。雑誌「ミレニアム」の共同経営者でありスター記者のミカエル・ブルムクィスト(以後、ミカエル)と、背中にドラゴンの入れ墨を入れたハッカー女性のリスベット・サランデル。ミカエルとリスベットを軸に、ストーリーは展開していく。
第1部は孤島での連続殺人事件、第2部は人身売買・売春組織との対決、第3部が公安警察の闇との死闘が描かれる。
それぞれで2人が活躍するのだが、リスベットから眼が離せなくなる。リスベットには2つの顔がある。運動神経が抜群で、コンピューターを駆使して、ミカエルとともに難題に立ち向かうのだが、一方で、彼女は幼少のころから暴力ざたを起こし精神病院に収容される経歴を持つ。この2つの顔のギャップは何なのか。その謎が、シリーズ全体を通して、少しずつ明かされていくのだ。ラーソンによる3部作で、リスベットの父が元ソ連のスパイであったことまでが描かれている。
さて、その後、2人目の作者ラーゲルクランツは、リスベットをどう描いていくのだろうか。メディアが盛んに注目し、ラーゲルクランはプレッシャーに苦しんだとのことだが、結果はおおむね好評のようだ。
第4部はAI開発をめぐる天才科学者とその息子の物語。ここでもリスベットの過去がまたひとつ明らかにされた。
そして本書の第5部では、遺伝研究組織による非倫理的な実験・調査が題材になり、さらに、この実験にもリスベットは巻き込まれていくのだった。
シリーズ全体を通して、女性への暴力(肉体的、精神的なもの双方)への怒りが流れている。セクハラ、DV、強姦、人身売買、強制売春といったテーマがストーリーの大事な要素として登場するが、リスベットはそれらに敢然と、ある時には実力を持って(彼女はボクサーでもある)立ち向かうのである。その怒りのすさまじさも、このシリーズに緊張感をもたらしている。
一人目の作者ラーソンの死後、彼の親友でジャーナリスト仲間の人物が、「ミレニアム」創作の背景を語っている。それによると、ラーソンは10代のころ、知り合いの女性が強姦されている現場を目撃しながら、止めに入れず、後日、その女性に、止めに入らなったことを謝罪にいったところ、拒絶された、という。この女性の名前がリスベットだった。「ミレニアムでリスベットを描くことが、ラーソンなりの謝罪の仕方なんだ」とこの人物は語っている。
ラーソンの「ミレニアム」への思いを、二人目の作者であるラーゲルクランツは保ち続ける運命にある。
本書に続く、第6作は2019年に出版されるという。
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