写真家の三好和義さんは、二つの点て傑出している。一つは写真界での「神童」ぶり。「17歳のときニコンサロンで個展、当時最年少」「木村伊兵衛賞、当時の最年少受賞」などというように、経歴にやたらと「最年少」が付く。
もう一つは写真の美しさ。「楽園写真」シリーズでおなじみなので、目にしている人が多いはずだ。
本書『桂離宮』を久しぶりに手にして改めてその「美しさ」を痛感した。評者も何度か桂離宮を訪れたことがあるが、その時の印象と本書の写真とはだいぶ異なる。実物もそれなりに見事だが、三好さんの写真で見る桂離宮は、ほとんど別物と言ってもいいかもしれない。元々の美しさを200%も300%もブラッシュアップした感じなのだ。
桂離宮は築約400年の建物であり、内部もそれなりに経年変化している。もちろん大規模修理をしているし、日々きれいに磨き込まれているとはいえ、今日の化学的素材を使っているわけではないから、全体にくすんでいる。
それが三好さんの写真になると、どうだろう。離宮は細部に至るまであくまでみずみずしく、光沢を得て、色合いを取り戻している。薄暗いはずの室内もよく見通すことができる。有名な市松模様の襖や棚、金具の一つ一つまでが、まるでつくられた当初のように生命力を回復している。
宮内庁の了解を得た上の入念な撮影ということもあるのだろう、思いがけない角度からの写真も多い。一般参観では見ることのできない建物の内部から見た庭の様子など、何度か行ったことがある人にとっても垂涎であり、ため息が出るだろう。
八条宮智仁親王(1579-1629)の別邸として作られた桂離宮は、明治期に来日したブルーノ・タウトによって、「実際これ以上単純で、同時にこれ以上優雅であることはまったく不可能である」と評され、名声を確固たるものにした。「みやび+わび・さび」ともいうべき寛永文化の象徴であり、現在まで続く日本文化のタイムカプセルともいえる。
類書も少なくないが、サイズや値段のてごろさ、専門家による適切な解説、そして何よりも群を抜く写真の出来栄えによって、座右に置きたい一冊となっている。
本書は三好さんによる「京都の御所と離宮」シリーズの三冊目。「京都御所」「仙洞御所・修学院離宮」編もあるので、合わせて見ると、さらに深く京都の神髄に触れることができるだろう。
なお近著『三好和義・楽園写真術』(朝日新聞出版)では、美しい風景写真の撮影術について詳細に説明している。
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