「働き方研究家」を肩書の一つに持つ西村佳哲さんは、働き方改革が国を挙げての課題になる以前から「自分の仕事をつくる」「なんのための仕事」などの著作を通じて、働くこと、仕事をすることの意味を問いかけてきた。本書『一緒に冒険する』(弘文堂)は西村さんの5年ぶりの作品。自分らしい働き方、暮らし方にたどりついた人たちのインタビューをまとめたもので、自らの「働き方改革」を考えている人には染みるであろう一冊。
表紙にはタイトルと著者名だけ。サブタイトルもなく書店に並んでいるところを見ただけでは何の本かさっぱり分からない。著者名の下に小さく「with 奈良県立図書情報館」とあり、さらに内容の推測を困難にする。とびらを開け「まえがきにかえて」として配された「障がい者施設の冒険」でアウトラインが明らかになる仕組みだ。
福岡の障害者福祉施設の運営に携わる2人の男性へのインタビュー。 1人は写真を学ぶ学生時代に、もう1人は染織会社に勤務していたときに施設の仕事に出会い、この仕事を選んだという。2人は施設のスタッフや利用者と接し、健常者と呼ばれる人たちと生きる道が分かれてしまっていることが問題と考える。両者が普通に日常的に集まれる場所が街の中にあればいい、そういう場があって、経験が重ねられれば、不要な差別や偏見は自然となくなるのではないか―。そう考えて「自分の仕事」をつくりだしている。そして、それをいきいきとして語るのだ。
障害を持つ人たちはたいてい放課後に道草をした経験がないという。それは送り迎えに従わなければならないからで、興味があるものがあっても動いていく機会がない。それが習い性になり、自分が分かっている範囲でしか行動しなくなり、この人なら信頼できると思う人にしか向かっていかなくなる。そうした従来の枠を脱して、一緒にさまざまなところに出かけたりして「友だち同士であるとか、ときには兄弟のように感じられる相手が増えていく、この感覚を楽しんでほしい」。それは「『あなたも知らないところへ、一緒に冒険しに行くんです』ということ」なのだ。書名はこの発言からとられたものだ。
本書は「まえがきにかえて」のあとに8人のインタビューが続く。インタビューは、2015年1月に約300人が集まり開催された「奈良の図書館で開催したフォーラム」でのものが中心。フォーラムのテーマは「ひとの居場所をつくるひと」だった。登場するのは、カフェのオーナーから転じた市議会議員、長野県の山奥に自然治癒力を養うという養生施設を開いた人などで、いずれも自らの仕事を、試行錯誤しながらつくり出してきたキャリアを持つ。
著者は15年ほどまえに「自分の仕事をつくる」(晶文社、ちくま文庫から復刊)を刊行。同書は「いい仕事」をしていると評判の人らを訪ねて仕立てたエッセイ集で「働き方」論の草分け的な存在。迷った人たちにとってのバイブルとしてロングセラーになっている。
本書は「自分の仕事」ではなく、他者とのかかわり前提にした「一緒に冒険」したくなるような仕事論。就労時間や副業について考えることだけが「働き方改革」ではないのだ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?