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「若年非大卒男性」は現代の金の卵だ

日本の分断

 2009年に著者の吉川徹(きっかわ・とおる)氏(大阪大学大学院人間科学研究科教授=計量社会学)が書いた『学歴分断社会』(ちくま書房)は、大規模社会調査のデータ分析をもとに大卒層と非大卒層とを境界づける「学歴分断線」が経済的豊かさやさまざまな格差の正体であることを暴いた。新刊の『日本の分断』(光文社新書)は、その続篇にあたるが、分断はさらに深刻化していると指摘する。だが、同世代の5割を占める「非大卒若者」を「レッグス」と名付け、彼ら(男女ともに)こそ「社会の宝」ととらえ、ポジティブな提言をしているところに、多くの格差論者とは違う視点がある。

 内容に入る前に、この本の基礎データとなっている二つの大規模学術社会調査に触れなければならない。日本の社会学者は10年ごとに大規模調査を行っている。本書は2015年に行われた第7回SSM調査と第1回SSP調査が分析のもとになっている。前者は60年も継続している時系列調査で、仕事、経済状態、資産、親世代と子世代の関係などを調べる。後者はタブレットPCを用いた技法で社会的態度や活動などを調べるため初めて実施された。文科省が所管する科研費特別推進研究事業の成果が利用されており、著者はSSP調査の代表者でもある。

 「団塊世代が退出する2025年頃を機に、新しいタイプの分断社会が到来する」という意表をつく書き出しで始まる。どういうことなのか?

 著者は、現役世代を8つに分類する。まず、ちょうど真ん中の40歳(2015年の調査時点)で上下20生年に切り分ける。上が壮年、下が若年だ。壮年は40代、50代の約3305万人だ。団塊ジュニア以上の世代でもある。さらに男女、そして大卒か非大卒か。8つのセグメントはほぼ同程度の重みで現役世代を構成している。

年収格差は4.7倍

 経済的豊かさはどうか? SSM2015によると、最も個人年収が多いのは壮年大卒男性の659.4万円で、最も少ないのは若年非大卒女性の140.2万円だった。その格差は4.7倍と大きい。収入のほか、既婚か未婚か、こどもの数など人生の有利・不利の凸凹が8つのセグメントではっきりと見えてくる。

著者は、それぞれの特徴を見出し風にこう書いている。
壮年大卒男性  20世紀型の「勝ちパターン」
壮年非大卒男性 貢献に見合う居場所
壮年大卒女性  ゆとりある生き方選び
壮年非大卒女性 かつての弾けた女子たちは、目立たない多数派に
若年大卒女性  多様な人生選択、都市部で最多数派
若年非大卒女性 不安定な足場、大切な役割
若年大卒男性  絆の少ない自立層
若年非大卒男性 不利な境遇、長いこの先の道のり

 著者は初めて行ったSSP調査をもとに「若年非大卒男性」は、ポジティブ感情は最も低く、社会的活動については総じて活動頻度が低く、政治的な理解や関心は低く、選挙にも消極的、教養や文化活動への志向も希薄で、健康的な配慮も十分ではないという姿が浮かび上がったという。

 著者は「日本社会は、現役世代のなかで一番長く、大きな力を発揮できそうな、そして最も若くてバイタリティにあふれているはずの人たちを、うまく仲間に取り込めていません」と書く。

 そして彼らをレッグス(LEGs)、Ligtly Educated Guys(軽学歴の男たちの意味)と呼ぶことによって、彼らの問題を顕在化し、政策的に支援しようと呼びかける。低学歴ではなく軽学歴としているのがミソだ。レッグスには社会の「脚=レッグス」として貢献している彼らへの尊敬の念も込められている。

 地方の地元高校を卒業して地方に残っているレッグスたちは日本社会を支える「現代の金の卵」だと著者は称賛する。彼らがいなければ道路や建物の建設、荷物の輸送は言うに及ばず、外食や小売などのサービス業の維持はおぼつかず、日本の社会は回っていかないからだ。非大卒層の質の高さによって日本社会はうまく駆動しているのだ。

 団塊世代が完全に引退すると、労働力の不足がさらに深刻化し、いま以上に外国人労働者が入ってくることが予想される。レッグスと外国人労働者の競合、対立といった事態も予想できないことではない。

 前著『学歴分断社会』で著者は「親子ともども大学に進学しない世代間関係が繰り返されることも......理不尽ではない」と表明し、すくなからず議論を巻き起こした。大学進学が必ずしも是ではないという見解を示したからだ。

 評者は、中部地方のある地方都市で、非大卒の男性、女性たちが生き生きと地域で活躍している姿に感動したことがある。大卒は大卒だけ、非大卒は非大卒しか知らず、相手を見ていない、知らないという著者の指摘はその通りだと思う。大卒者と非大卒者がともに手をとりあって支え合う社会の実現が求められている。

 豊富なデータをもとに有意義な提言がされている本書は、学歴や学歴社会を論ずる上で必携の書となるだろう。  

  • 書名 日本の分断
  • サブタイトル切り離される非大卒者(レッグス)たち
  • 監修・編集・著者名吉川徹 著
  • 出版社名光文社
  • 出版年月日2018年4月30日
  • 定価本体860円+税
  • 判型・ページ数新書判・262ページ
  • ISBN9784334043513
 

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