1週間ほど前、NHKBS放送で映画「ジョーズ」の再放送を偶然見て、サメの恐怖に改めておののいた。ところが、その翌日に本書『ほぼ命がけサメ図鑑』(講談社)の著者、沼口麻子さんがラジオで「人喰いザメは存在しない」と力説しているのを聴いて、驚いた。どっちがホント?
沼口さんの肩書きは「シャークジャーナリスト」。東海大学海洋学部と同・大学院でサメの生態を学んだ後、サメが好きでフリーランスとなり、サメにかかわる取材と情報発信を行っている。
地球上にサメは509種類もいて、その生態はさまざまで、よく分からないことが多いという。さて映画「ジョーズ」に登場するのは全長8メートルの「ホホジロザメ」のオスということになっているが、これまで確認されている最大のホホジロザメは、メスの個体で全長6.4メートル。オスは最大でも5メートルなので映画の設定に無理があるという。
モデルとなったアメリカの「ニュージャージーサメ襲撃事件」では、12日間に5人が襲われ、そのうち4人が亡くなった。当初はホホジロザメの仕業と考えられていたが、今では「オオメジロザメ」と推定されている。襲われた5人のうち3人は川にいたが、ホホジロザメは川に入っていくことができない種だからだ。
オオメジロザメこそ「人類にとってもっとも危険な種」と、「ジョーズ」の制作に協力したサメ研究の大家レオナルド・コンパーニュ博士は見ているという。ともあれ、「ジョーズ」の影響で、サメ=悪者のイメージが定着し、行き過ぎた「サメ退治」のせいで、「絶滅危惧種」のサメは74種にのぼり、くだんのホホジロザメや水族館で人気の「魚類最大」のジンベエザメも含まれるそうだ。
沼口さんによると、509種のサメのうち、人を襲う可能性があるのは1割程度で、残りの9割は臆病で、人間と遭遇すると逃げてしまうか無関心かのどちらかだという。被害件数が多いのはホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメ、シロワニと続く。不用意にサメを刺激しないように「自分から決して近づいたり触ったりしないように」と呼びかける。アメリカで1959~2010年の約50年でサメに襲われて死亡したのは26人、年平均で0.5人だが、この数字を大きいと見るか少ないと見るかは判断が分かれるだろう。
こうした話題のほかに、本書ではカグラザメ、サガミザメ、ミツクリザメなど15種について、沼口さんの体験をもとにした詳しい解説がされている。静岡県の焼津ではサガミザメなど深海ザメの漁が日本で唯一行われており、第二次大戦中は深海ザメの「肝油」は、ゼロ戦の潤滑油に使うため国が深海ザメを買い上げていたそうだ。サガミザメの刺身は絶品という。
フカヒレ以外のサメ食にも多くのページが割かれている。青森県などで広く食用にされるアブラツノザメのおいしさ、サメ食消費日本一とされる新潟県上越市で食されるモウカザメの調理法、東京・築地市場はかつてマグロよりもサメで賑わった話など、日本人とサメとの長いつきあいが紹介されている。
ネットで検索すると、サメの図鑑や写真集は思いのほか多いことが分かる。本書はサメに2本ある交接器の解説からフィジーでレモンザメにじゃれられ、甘噛みされた体験まで話題の間口の広さでかなう類書はないだろう。伊達に世界で唯一の「シャークジャーナリスト」を名乗っているわけではないと感心した。
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