スリル満点の本だ。高所恐怖症の人は避けた方がよいと思う。『世界の断崖 おどろきの絶景建築』(発行・編集 パイ インターナショナル)。
タイトル通り、世界各地にある絶壁の上部や側面にへばりついた数奇な建築物を写真で紹介している。誰がなぜ、よじ登ることも困難な場所に建物をつくったのか。
表紙の写真が強烈だ。ジョージア(旧グルジア)に現存する「カツヒの柱」。知る人ぞ知る有名建築らしい。高さ約40メートル、空中にそそり立つ石灰岩の頂上部分のわずかな空間に修道院がつくられている。最近の研究だと、9~10世紀のことだという。建物の屋根の部分に十字架が見える。地元ではこの石柱のことを「命の柱」と呼んでいるそうだ。
今も一人の修道士が住んでいるという。岩柱の側面に目を凝らすと、岩肌に沿ってハシゴがへばりついているのがわかる。これを頼りに昇り降りしているのだろう。ロッククライミングの心得がないと、務まらない。俗界と切り離された聖なる空間。そこで日々、神と対話するわけだから、さぞかし精神は清められ純化されるに違いない。
本書にはこうした特異な建築物が58か所も収められている。日本のものも一か所。あそこが登場しているだろうなと思うところが、ちゃんと入っていた。鳥取県の三徳山三佛寺。国宝になっている。周囲を高い山々に囲まれ、渓谷地帯の断崖の中腹に寺院が築かれている。修験場でもあり、木の根や岩を伝ってよじ登る。寺院のホームページを見たら「滑落事故が多発」とあった。
58か所の内訳をみると、スペイン、イタリア、南フランス、ギリシャ、中東あたりが多い。続いてインド、中国など。スペインは、イスラム教徒との攻防最前線となって、険しい断崖に要塞都市がつくられた。そのほか地中海沿岸、インド、中国などで目立つのは宗教施設だ。建造するのも暮らすのも大変な「断崖建築」を可能にしたのはおおむね軍事上、宗教上の理由だということがわかる。評者は以前、中国シルクロードの火焔山付近の断崖にあるベゼクリク千仏洞を訪れたことがある。崖に沿って仏洞が並ぶ。よくぞまあこんなところにつくったものだと驚いた。彼らの宗教的な営為なしには、ひょっとしたらインドから日本に仏教も届かなかったかもしれないと思い、感慨があった。しかし、本書で紹介されている断崖は、はるかにインパクトがあるものばかり。
最近できたものの中には登山家用や、観光客目当てというものもある。たとえばスイスアルプスの山小屋や展望施設など。番外編で紹介されている中国・湖南省天門山の「ガラスの歩道」なども観光目当てだろう。高さ約1500メートルの天門山の山肌の壁に巻きつくように設けられた歩道だ。舗面がガラスなので足元の下が丸見え。空中回廊といえば聞こえがいいが、生きた心地がしない。インスタ時代なので、ネットには多数の写真がアップされている。
近年、スカイツリーなど超高層の人工建造物が大流行りだが、自然の断崖、絶壁をもとにした危うい構造物は、危うさやコワさが半端ではない。中にはすでに地震などで放置され、廃墟化しつつある建物もある。
本書には「まえがき」も「あとがき」もないから、編集の意図や詳細は分からない。海外で出版された本の翻訳なのかとも思ったが、訳者名が出ていないので、日本で作られた本のようだ。写真は「アフロ」のものが多い。
BOOKウオッチでは『世界「奇景」探索百科』(原書房)や『秘島図鑑』(河出書房新社)も紹介したが、それらと同様に本書も、行きにくい奇所への想像旅行の手引きとして手元に置いておきたい一冊だ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?