1990年代に入ってインターネットが商用利用できるようになり、その後は年を追って新しい情報技術が登場し、とくに米国では、それに拠って立つ新しい産業の企業が著しい成長を遂げている。米企業の時価総額トップ5は、それらの代表格といえるアップル、グーグル、マイクロソフト、フェイスブック、アマゾンが占め、現代の米国の経済成長を支えている。
経済や金融、ビジネスなどについて数多くの著作がある野口悠紀雄さんの最新刊『「産業革命以前」の未来へ』(NHK出版)は、次代の成長を担うのは、やはり情報技術系のユニコーン企業であると指摘。AI(人工知能)やブロックチェーンの進化とあいまって、ビジネスモデルに大転換がもたらされるという。
18世紀後半から19世紀にかけて起きた産業革命で、各産業では集権化、垂直統合化、組織化が進められてきたが、さらに加速する情報技術の進化により、まもなく、この産業革命以来のベクトルは反転し、産業界では、分権化、水平分業化に向かうという。すでに米国では、タクシー会社に雇用されていた運転手が、急成長した配車サービスの「ウーバー」に登録して自営に転じるケースが増えているという。
「ウーバー」は、本書が次代の主役と位置付けるユニコーン企業の一つ。「ユニコーン」は、日本語では一角獣と呼ばれ、額に一本の角がある伝説の生き物。ユニコーン企業は、評価額が10億ドル以上の非上場のスタートアップ企業のことだが、成功したベンチャーを数少ない伝説的な存在としてそう呼ばれるようになったという。ちなみに、アップルの時価総額は、本書が引用している2017年12月時点での資料によると、8860億9000万ドル。
本書が引用している資料によると、世界のユニコーン企業は18年1月時点で169社。13年には米シリコンバレーを拠点とする企業を中心に39社だったというから5年ほどの間に4倍以上に増えたことになる。これは「新しい技術やビジネスチャンスが払底しておらず、むしろ続々と登場していることを示している」ものだ。
アップルが通信の分野で、アマゾンが小売りや流通の分野で、成長の過程で伝統的企業のオペレーションを陳腐化してきたのと同じように、いくつかのユニコーン企業はすでに同じ分野の伝統的企業を追いぬいている。ウーバーは17年7月、ニューヨーク市での1日の当たりの平均乗車回数で28万9000回を記録。これに対し、同市のタクシーであるイエローキャブは27万7000回だった。また民泊サービスのエアビーアンドビーは17年8月に、運営する情報サイトの全世界での登録物件数が400万件を突破。世界的ホテルチェーンのマリオットインターナショナル(115万室)、ヒルトン(79万室)、インターコンチネンタル(72万室)の合計客室数を上回る規模になった。
近年、開発が急速に進んでいる印象があるAIが、これらユニコーン企業の成長を加速させる可能性も高い。ウーバーの利用者が車や運転手の希望を入力することでAIがそれに応じるサービスが提供できるだろうし、エアビーアンドビーでも同じようなことが可能だ。従来ではそれらのサービスを行うためには、人手が必要であるから組織化、集権化が欠かせないプロセスだが、データの整理などはAIが担ってくれる。こうした指摘は、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』でもみられた。
本書によると、日本にとっての問題は「日本にユニコーン企業がないこと」。先進国でユニコーン企業ゼロは日本とイタリアだけという。ユニコーン企業ばかりでなく、日本での起業率は国際的レベルからみると著しく低く、アップル、やグーグルなど時価総額上位企業の段階でもはや勝負がついてしまったと著者は嘆く。ただ、次のユニコーン企業候補はいくつかあるという。
米国ではユニコーン企業は、大学生の就職先としても人気を集めているという。08年のリーマンショック前までは、ウォールストリートの金融機関が人気で、その後にはシリコンバレーの企業に注目が集まった。近年のトレンドは、昇進のスピードなどからユニコーン企業に目が向けられている。日本はというと、商社や金融系企業などの大企業が人気上位に並ぶのは何年も変わりがない。本書によれば、集権化、組織化は時代遅れになる見込み。働き方改革はこのあたりにも力を入れるべきではないか。
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