著者の先崎彰容(日本大学危機管理学部教授)さんは、1975年生まれの若手の研究者(日本思想史専攻)だ。NHK教育テレビで放送中(2018年1月)の「100分 de 名著」に出演し、西郷隆盛のことばを集めた『南洲翁遺訓』について解説している。西郷は今日にいたるまで多くの思想家、作家に大きな影響を与えているという。さまざまな西郷像を追ったのが本書『未完の西郷隆盛』である。
取り上げているのは、福沢諭吉、中江兆民、頭山満、吉本隆明、三島由紀夫、江藤淳、司馬遼太郎といった人々だ。福沢と西郷の結びつきは意外だが、福沢は西南戦争の終結から1か月後の明治10年(1877)10月、『丁丑公論』という西郷を擁護する論文を書いた。しかし実際に発表されたのは四半世紀後の明治34年だったという。政府批判とされるのを恐れたためと見られる。福沢は政府の情報統制と、それにしたがう新聞報道を批判したのだった。西郷が武力を使ったのは間違いだが、西郷の精神には学ぶべきことがあったというのだ。
著者は福沢諭吉、中江兆民、頭山満、江藤淳らにとって、西郷は「反近代の偶像」だったと見る。
一方、国民作家だった司馬遼太郎も、西郷を主人公にした『翔ぶが如く』を書いているが、否定的にしか描けなかった。司馬が西郷の征韓論を嫌悪したためだという。また「西郷の反近代主義は、リアリズムを欠いた野党の典型であり、現在にまでつながる病理だと見なしたのである」と述べている。
にもかかわらず、なぜ西郷の人気は衰えないのか、いや大河ドラマの主人公として復活するのか。著者は思想的立場を問わず、多くの日本人は西郷に自らの死生観を仮託しているからではないかと考える。生と死を同じ重みで感じること、「天命」に思いをはせること、そうした死生観への共感が広がっているのではないかと指摘する。
昨今の西郷ブームはNHKが先導した一過性のものかと思っていたら、そんな浮ついたものでもなさそうだ。近代化の行き着いた現代日本を見つめ直す契機として、西郷がとらえかえされているのかもしれない。(BOOKウォッチ編集部)
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