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「最期の書」が本当に絶筆になってしまった

保守の真髄

 

著者の西部邁氏が1月21日(2018年)に自死し、言論界に衝撃を与えた。昨年(2017年)末に刊行された本書『保守の真髄』の帯には「大思想家・ニシベ 最期の書!」と書かれ、直前に出た「週刊新潮」(1月25日号)の書評で、落語家の立川談四楼さんは「最終章、ここでアッと声が出た。死に関することで、述者(注:西部氏のこと)は現代においては驚愕の死に方を画策しているのだ」と述べており、なにやら不穏な雰囲気は漂っていたのだ。

 

しかし、あらためて襟を正して本書を読み始めると、まことに端正な構成と語り口に驚かされるのである。第1章第1節は「文明と文化とのかかわり」の項で始まり、福沢諭吉『文明論之概略』、マッキャヴェッリ『君主論』を引用しつつ、「文化の乏しい文明」への懐疑を持たない昨今の日本人を揶揄し、自画自賛の日本論の横行を嘆いている。

 

第1章でさまざまな日本人論、日本論を検討し、日本文化は「普遍性を根底に有する個別性」として立ち現れると結論づける。

 

第2章では民主主義を論じ、アメリカの本質はレフティズム(左翼主義)にあり(ここでの左翼とは、フランス革命にちなみ、自由・平等・博愛・合理の理想四幅対を国家の表玄関に掲げることを指す)、「だから、親米保守などという代物は厳密にいうと「親左翼にして反左翼」という訳のわからぬものになって当然というほかない」と「反米」主義者の面目躍如たる一面をのぞかせている。

平成の改革を批判

 

前半は古典などに触れながら、自己の理論的枠組みを押さえつつ論述を進めている。これに対し後半は、平成以降のさまざまな改革を批判し、熱を帯びてくる。その上で、吉田茂のアメリカとの妥協、岸信介のやろうとしたアメリカからの一定の(形式的な)独立、池田勇人の「所得倍増」、田中角栄の「日本列島改造」、大平正芳の「田園都市国家構想」、中曽根康弘の「不沈空母日本」、竹下登の「ふるさと創生」にもそれぞれ重要な意味が込められていたと戦後昭和を振り返る。そして、それらを総合して日本国家にインテグリティ(総合性・一貫性・誠実性)を与え、この列島にオートノミー(自律性)を持たせることが必要だと訴える。アベノミクスについては一瞥を与えて終わりという印象だ。

 

本書の「解題 序にかえて」で、著者は利き腕の右腕が激しい神経痛のため、「自分にとって最後となるはずの著述」をお嬢さんに口述筆記してもらったと記している。前著『ファシスタたらんとした者』(中央公論新社、2017年)が自伝的な内容で、その中で「じきに死ぬと察しられたら、実行力の残っているうちに、あっさりと自裁する」ことを表明していた。本書は帯に「最期の書」と記し、最終章で自裁死を予定していたことを強くほのめかしてはいるが、基本的にこれ保守の理論の書である。しかも、『経済倫理学序説』(中公文庫・1983年度吉野作造賞受賞)で論壇にデビューした経済学者らしく「経世済民を忘れた経済『学』」(第3章第1節)に論及し、冷静に日本と世界の将来を見据えていた。

 

評者は生前の西部氏に一度だけお会いし、氏が尊敬していた保守の総帥とでもいうべき評論家・故福田恒存氏についての解説をうかがったことがある。「真の保守とは」という話で盛り上がった記憶がある。その後、西部氏はなぜか福田氏の不興を買い、出禁状態になってしまった。福田氏の誤解が原因のようだったが真相はわからない。冥界に旅立たれた西部氏は福田氏のもとを訪れ、改めて自らの「真意」を説いているのではないだろうか。(BOOKウォッチ編集部)

  • 書名 保守の真髄
  • サブタイトル老酔狂で語る文明の紊乱
  • 監修・編集・著者名西部邁 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2017年12月20日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書判・265ページ
  • ISBN9784062884556
 

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