本を知る。本で知る。

経済学のトリセツを通して、日本経済を分析する

日本経済の新しい見方

 

 かつてメリルリンチ日本証券のシニアエコノミストとして在籍していた2人が、経済学における主流的な理論と、市場動向を通じて実感する現実の間にあるギャップを埋めようとして執筆したのが本書『日本経済の新しい見方』である。

 

 「アベノミクスは正しいことを目指していて、この道しかない」という意見と「アベノミクスは大失敗である」という正反対の意見を述べる経済学者がいる。そうしたことが「経済学は使えない」という印象をもたらしていると著者たちは嘆く。そうした印象を減らすための「経済学のトリセツ(取扱い説明書)」を意図したのが本書である。

 

 経済学の中級レベルの教科書としても有効かと思う。たとえば実践的な分析・検討に必要なのは難しい学問的な要素ではなく、二つの概念すなわち「GDPの三面等価」と「貯蓄投資バランス」を正しく押さえること。次にツールとして使うにあたっては、マクロ経済とミクロ経済の差につながる「波及効果やフィードバック効果」「数学的な経済モデルの使い道と相関や因果関係といった事象間の関係性」「分析における前提条件の適切さ」の三つに留意すること。そして分析のための手法は「観察」「判断」「基準」の三段階になることだと説く。

 

 その上で、デフレ脱却を日本経済の評価軸に据え、それを達成するまで目指し続けるという一貫した姿勢が必要だと訴える。「デフレは諸悪の根源」であることを示すフローチャートの中央には「現金が王様」という命題が掲げられ、その周囲を「企業減益」「株価下落」「家計の消費節約」など負の事象が取り囲む。

 

 本書の指摘するポイントの一つは、一国の経済全体の動きを一企業、一家計とのアナロジー(類似)で考えてはならないということだ。家計・企業では収入より支出が多い状態は維持できないが、経済全体ではだれかの支出はだれかの収入となる。そうしてマネーが循環すれば、取引が活発になり経済は成長する。金利が高くて経済活動を阻害するような状況でなければ、政府債務の返済(ましてや完済)を最優先課題にとらえる必要はないと説く。

アベノミクスも公正に議論

 

 このほか、財政政策に効果はないのか、財政に絡む議論のゆがみ、日本の生産性は低いのか、などが実証的なデータとともに論じられている。本書では通俗的な議論やポジショントークは一切、排除されており、「アベノミクス」についての評価も公正である印象を受けた。

 

 長年、エコノミストとして金融経済の動きを経済学の羅針盤に照らして分析してきた著者の説得力は抜群である。イェール大学名誉教授で内閣官房参与の浜田宏一氏も「本書をゼミで精読して、教師が経済学の立場からそれに真剣に答えれば、その対話は本当に学生の血肉となるだろう」と推薦する。(BOOKウォッチ編集部)

  • 書名 日本経済の新しい見方
  • 監修・編集・著者名会田卓司、榊原可人 著
  • 出版社名金融財政事情研究会
  • 出版年月日2017年12月21日
  • 定価本体2400円+税
  • 判型・ページ数四六判・405ページ
  • ISBN9784322132298
 

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?