いま地方都市を舞台にした小説が増えている。その中でも『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎、2012年)で衝撃的なデビューを飾った山内マリコは特異な位置を占めている。町おこしブームに乗って、予定調和的に田舎の良さを喧伝する作品が目立つ風潮に冷や水を浴びせたのだ。ロードサイドにチェーン店が並び、ショッピングモールが若者のたまり場になっている地方都市の実情を女子目線で描いた作品だった。「ここではないどこかに行きたい」という切実な欲求が感じられた。
つづく『アズミ・ハルコは行方不明』(同、2013年)は、地元で再会した男女が街から消えた28歳の安曇春子(あずみはるこ)を探すというミステリアスな作品だった。2016年に蒼井優主演で映画化もされた。
そんな作風の山内が今回、がらりとモデルチェンジしたのが本作だ。著者が地元、富山の商店街(総曲輪=そうがわ)を徹底取材し、シャッター通りと化した商店街をよみがえらせようと奮闘する姉妹を描いたものだ。
冒頭、街づくりの調査をする大学の女性講師にこう語らせている。
「県外から来た学生たちはみんな大学近辺に住むので、その近くでなんでも用事をすませてしまうんですね。お金もないので飲み会は下宿先でやることが多く、洋服などの買い物はそれぞれの田舎に帰ったときに、地元のイオンで買うという声が寄せられました。時代は変わったんだなぁとびっくりで」
県庁所在地レベルの地方都市はどこも、中心市街地活性化事業を進めている。国から多額の補助金が出るからだ。しかし、青森市や秋田市のような失敗例も少なくない。本作の舞台は富山市とは明示されていないが、富山市であることは疑いもない。ライトレールの延伸などでコンパクトシティー化の先進例とされる富山市でも、商店街の空洞化には歯止めがかからないようだ。
本作では市役所職員、商店街の若手経営者、地元大学の研究者ら多くの人々が街の再生に取り組む様子が熱く描かれる。物語の結末については山内流の味付けがされていると言っておこう。これも地方のひとつの様相なのだ。
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