解散総選挙で自民党は圧勝し、2017年10月24日の日経新聞一面トップには「首相、アベノミクス再起動」の見出しが躍った。来年4月には日銀の黒田東彦総裁が任期満了になるが、黒田氏続投の話も聞こえてくる。
何かと話題のアベノミクス。成功か失敗か、本当のところはどうなのか。
本書『偽りの経済政策』は、アベノミクス批判派として知られる京都大学・服部茂幸教授の近刊だ。すでに14年にも『アベノミクスの終焉』を出しているので、今回が批判本の2冊目になる。
衆知のようにアベノミクスは、「財政出動」「金融緩和」「成長戦略」という「3本の矢」で、長期のデフレを脱却し、名目経済成長率3%を目指すというものだ。1と2の矢はすでに放たれたが、なかなか3の「成長戦略」が見えてこない。デフレ脱却、成長率3%と言うあたりも、実現していない。
本書で改めて中間総括しているが、タイトル通りに内容は辛らつだ。成長率は1%程度で、アベノミクス前の水準と比べても低く、「とても成功とはいえないだろう」。雇用回復が成果とされるが、増加しているのは短時間就業者で、逆に長時間就業者は減少した。企業利益の急回復も成果とされるが、生産や売上増はわずかで、円安、原油安、人件費削減の要因が大きい。ゆえに「アベノミクスの成果と言えるものは存在しない」と手厳しい。
アベノミクスについてマイナスのことを語ろうとすると、政府筋から何かと「忠告」が入るという話を大手マスコミ関係者から聞いたことがある。本当かどうか分からないが、それだけ関係者が神経をとがらせている、ということの一例だろう。
ともあれ、このところ日経平均は2万円を突破し、上場企業は内部留保をため込んで、業績の上方修正が続く。安倍首相は来春闘で経済界に「3%の賃上げ」を期待すると表明したそうだ。10月最終週発売の週刊現代は、「強い日本経済が帰ってきた」「今度の好景気は本物、株も土地も給料も上がる」と元気がいい。
なんだか、急に日本経済に絶好調感が広がっているが、東京新聞などが加盟している日本世論調査会の9月末調査だと、アベノミクスに期待しない人が56%に上り、期待する人は41%にとどまっている。他の調査でも類似の数字が多いようだ。
財政が出動し金融を緩和すれば、建設業が活況になり、マネーが株や不動産に流れ、経済の見かけがよくなるというのはバブルで経験ずみだ。しかも今回は「異次元緩和」で、おまけに日銀が直接動いている。日銀の日本株の保有残高は17兆円を突破し、計算上、発行済み株式数の5%以上を保有する企業数は83社に上る(日経新聞、17年6月24日)。
「官製相場」「官製ミニバブル」の声もあるほどで、伊東光晴氏や金子勝氏など経済学者の間ではアベノミクス批判派が少なくない。「エコノミスト」(毎日新聞社)の2017年9月26号では、関西大学の森岡孝二名誉教授が、「本書が説得的に述べているように、アベノミクスの失敗は誰の目にも明らかである」と語っている。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?