「チャヴ(Chav)」は英国で、下層階級の若い白人労働者を表す言葉で、教養の欠如や粗野な振る舞い、特徴的な服装などにより類型化され、蔑称として使われている。欧州連合(EU)の離脱(ブレグジット)をめぐって注目される英国だが、ブレグジットにいたった背景には深刻な社会の分断化があり、また、分断された向こう側に囲い込まれていたチャブの"目覚め"があるという。本書は、遠く離れた日本からはうかがい知ることができない英国階層社会の実情を明かしている。
定職につかずブラブラ...というのとは違うようだ。「公営住宅」「浪費癖」「暴力」「怠惰」「十代での妊娠」「人種差別主義者」などがステレオタイプ化したチャヴのイメージという。時代の変化のなかで労働者階級が多く住む公営住宅が貧困層の「ゲットー化」。そこで生まれた若者たちは下層階級に固定化され、自分たちを分断する境界線を越えられない。
原書が出版されたのは2011年。その3年前に起きた米投資銀行リーマン・ブラザーズ倒産に端を発した不景気が世界を覆い、世界各地で「ウォール街を占拠せよ」の運動が行われていたころだ。その原動力になったのは中流層あるいは中産階級の市民で、世界に共通したこうした動きの陰で、英国では下層の労働者階級がますます顧みられない存在になった。
当時、二十代の若手ジャーナリストとして英国内で注目される存在だった著者が、すでに顕著だった分断化の元凶と指摘するのは、1979年から11年間続いたサッチャー政権。個人の自助努力を説き、労働者階級の人たちも向上心があれば中流階級へ"上昇"できると促し、労働者階級の主な就業先だった鉱工業をないがしろにしたことで、上昇がかなわなかった人たちは行き場を失い、貧困白人労働者階級として取り残されたと分析する。
サッチャー、メージャーと続いた保守党政権のあとを受けて登場した労働党のブレア政権は、労働者階級重視の「オールド・レイバー」(旧労働党)から、中流階級に目を向けた「ニュー・レイバー」(新労働党)を公言。社会から切り離された格好の貧困労働者階級はさらに追い込まれ「チャヴ」と呼ばれ、蔑視されるようになった。
著者は下積みの労働者階級が蔑視、敵視される社会が英国で作られてきた経過を、政策による効果を論じながら明らかにしているが、そのなかで、マスメディアが政治の側について労働者階級を攻撃していることも指摘している。
社会から引きこもるように暮らす貧困層の労働者階級がポピュリスト右派政党の先導で意思表示を始める。右派勢力は白人労働者階級が不満に感じる不平等を移民のせいだと主張。「迫害されたマイノリティー」として決起を促された労働者階級はこれに応じ、それまでは出かけたことがなかった投票所に足を向ける。右派の台頭を「不吉」という著者は、「社会の格差について、より健全で生産的な考え方は、白人労働者階級の人たちと移民が同じ側に立って、本当の意味で略奪を働いている企業や富裕層に立ち向かうことだ」と訴えている。
本書の現代は「Chavs: The Demonization of the Working Class」で「チャブ:労働者階級の悪魔化」と訳せる。英国社会にとっての悪魔的存在に転じる可能性を言い表したものか。
週刊ダイヤモンド(2017年11月4日号)の「ブックレビュー」で「私の『イチオシ収穫本』」として本書を取り上げた北海道大学大学院法学研究科教授の吉田徹さんは「私たちは84年生まれの若き著者が『新しい階級政治』を唱えるような時代に生きている。政治を突き動かす、このミレニアル世代の訴えに耳を傾けなければ、未来を見損なうことになるだろう」と述べている。
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