ブルセラといえば、ブルマ―とセーラー服。一時は女子中高生を象徴する衣服としてサブカル世界で注目され、使用済み商品を売る店がにぎわったこともある。
そのブルセラの、「ブルマーのどこが謎なのか? ブルマーはブルマーだろ!」と思う人にまず説明しておこう。戦前から使用された"ちょうちんブルマー"に代わり、1960年代後半から登場した"密着型ブルマー(通称・ぴったりブルマー)はみるみるうちに全国の学校に普及し、女子体操着の圧倒的主流の地位を獲得したが、1990年代後半になると一気に消えてしまった。なぜこれほどまで普及し、なぜ急速に消滅したかが謎なのだ。
といっても、多くの人は「そんなのわかり切ってるじゃないか」と思うかもしれない。一般には「そんなの、学校指定の体操着なんだから普及するのは当たり前だし、ブルセラブームでマイナスイメージになって消えたのだろう」という認識が定着しているからだ。
実際、ブルマーの普及と急速な消滅には「定説」がある。普及の定説はまず、東京オリンピック契機説。ソ連バレーボールチームが着用した「密着型ブルマーはカッコイイ」ということで学校の女子体操着として採用されたというものだ。だが、実際の聞き取り調査では「下着みたいで恥ずかしい」という意見が圧倒的で、これは都市伝説に過ぎない。もう1つは運動機能向上説。ちょうちんブルマーと比べて密着型のほうが運動しやすいからというものだ。これも、身体の線が見えて恥ずかしくないトレパンやジャージにすれば解決するはずなのに、なぜブルマーだったのかという意味で説得力に欠けるのだ。
さらに、ブルマー消滅の理由とされる「ブルセラブーム」についても、「ブルマー姿の女子生徒に性的なまなざしが向けられるのは、何も1980年代後半に始まったことではない」と、ブルマー消滅の決定的理由には該当しないと、著者は指摘する。つまり、ブルマーは普及の理由も消滅の理由も定かではないのである。
社会学者の著者は、この謎の解明のためにブルマーに関するあらゆる資料を探索し、学校体育団体や体育衣料メーカーへの聞き取り調査を行い、16年がかりでついにその答えにたどりついた。そのすべてが本書に描かれている。この調査の過程は、まるでミステリー小説の謎解きを読んでいるかのようにスリリングである。読み進めるにつれて、戦後日本の社会的事情や、女子の身体感への文化的背景までをも明らかにしていく筆致は、見事としか言いようがない。
さらに、最大の謎でもあるブルマー消滅の理由については、おそらく誰もが想像さえしなかったであろう結末が用意されている。
日常は「小さな謎」に満ちている。ただし、それはいつも「当たり前」のベールを被っているので見つかりにくい。しかも、たまたま謎の卵を発見したとしても、答えを出すまで追求する人は少ない。取るに足らないように思えるかもしれない小さな謎をひたすら追いかけて大きな発見を生み出した著者の執念に、同じ書き手として頭が下がる思いで読んだ。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
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