日系英国人作家、カズオ・イシグロさんがノーベル賞を取った。下馬評にはあがっていたが、まだ62歳と若かったので、驚きもあるようだ。
国際的には、ブッカー賞を受賞した出世作『日の名残り』が有名だ。アンソニー・ホプキンス主演で映画化され、米アカデミー賞にもノミネートされた。日本では2016年にテレビドラマになった本書『わたしを離さないで』の原作者としても知られる。蜷川幸雄演出で舞台化もされた。
物語は主人公のモノローグと回想で展開する。訳者は『日の名残り』と同じくベテランの土屋政雄氏。流れるようによどみない語り口で、平易な文章が続く。実に読みやすい。主人公のキャシーは介護人。へールシャムと言う施設で「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。親友のトミーやルースも「提供者」だった。毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度......。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく。
テレビドラマでは、舞台が日本に移され、綾瀬はるかさんが主人公を演じた。撮影前にイシグロさんと会い、作品について何時間も話したそうだ。今となってはノーベル賞作家との面談であり、役者として大いに肥やしになったに違いない。文庫本も売れて、16年初頭までに61刷、累計40万部を突破した。英米文学者の柴田元幸さんが「あとがき」で、「細部まで抑制が利いていて、入念に構成」「きわめて稀有な小説」「イシグロの最高傑作」と激賞している。
アマゾンではいまや300以上のコメントが付く。星5つが多い。さっそく「ノーベル賞おめでとう」の声も。謎解きの要素もあり、ネタバレになるので、ストーリーの詳細は書きにくい。柴田氏も内容について具体的に述べることを避け、「予備知識は少なければ少ないほどよい作品」、「作品世界を成り立たせている要素一つひとつを、読者が自分で発見すべき」と書くにとどめている。
イシグロさんの受賞は、「日系」と言うことで大いに盛り上がった。日本で生まれ、5歳まで長崎で育ち、海洋学者の父の仕事の関係で渡英、のちイギリスに国籍を取得、日本語はほとんど話せない。
生まれた国と、主として活動する国が異なる作家は「越境文学者」などと呼ばれる。多言語が当たり前に欧米では珍しくないが、日本人や、日本で活動する作家でも増えている。
2008年に『時が滲む朝』で芥川賞を受賞した楊逸さんは中国出身。15年に直木賞を受賞した東山彰良さんは台湾出身。もちろん多数の「在日作家」はその先駆例だろう。欧米出身では米国生まれでのリービ英雄さんや、スイス出身のデビッド・ゾペティさんがいる。
海外でも活躍する日本人作家では、1992年に『犬婿入り』で芥川賞を受賞した多和田葉子さんが目立つ。長くドイツに住み、ドイツ語と日本語の両方で作品を発表している。
ゼロから英語を習得し、ノーベル賞にまで到達したカズオ・イシグロさんの受賞は、じわじわ増えている「越境作家」たちを大いに元気づけることだろう。
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