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「寅さん」は聖地で生きている

書評掲載元:週刊ダイヤモンド 2017年9月16日号 書評

『「男はつらいよ」を旅する』

 小説や映画の舞台なった場所や撮影の現場が「聖地」とされて、旅の目的地となることがしばしばある。渥美清演じるフーテンの寅が主人公の映画「男はつらいよ」といえば、その場所は東京・柴又が思い浮かぶが、風来坊の寅さんはシリーズ各作品で日本各地を旅しており、ファンらの間で聖地とされている柴又以外の場所も少なくない。本書は、映画評論や紀行文などで知られる著者が、寅さん好きが高じて、その跡を追い、全国をめぐり仕上げた「シネマ紀行文集」。

 「男はつらいよ」の第1作が公開されたのは1969年8月。その後「続男はつらいよ」(69年11月公開)「男はつらいよ フーテンの寅」(70年1月)「新男はつらいよ」(70年2月)と、立て続けに4作品が公開された。当時は、旅する時間がなかったようで、ロードムービー的になるのは第5作からだ。

 タイトルもそれらしく「男はつらいよ 望郷篇」(70年8月)。寅さんが北海道に渡り札幌や小樽を歩く。このあと「純情篇」「奮闘篇」と続き、それぞれ長崎・五島列島や青森・鰺ケ沢などでロケが行われた。そして、最後の第48作まで、舞台は全国各地に広がっていく。

 寅さんが「男はつらいよ」シリーズで各地を訪れたのは、半世紀も前のこと。時代は高度成長の真っ最中で、いずれの街にも変化がもたらされているころだった。寅さんは当時すでにあった新幹線にも乗らず、自動車も使わず、スピード化に逆行するような旅をして、それが映画の物語には収められてはいるが、いまではなくなったものや、大きく変わったものも多く、寅さんと同じ道をたどるのは容易ではなさそうだ。

 だが、ロケ地の地元を訪れるごとに著者は、記念の場所が「聖地」としても守られていることに感激する。鉄道の駅や、旅館、食堂、あるいは通りに「男はつらいよ」のロケ地だったことを示す表示が、高い確率で掲げられていたからだ。ロードムービーである「男はつらいよ」には、時代を代表するキャラクターである寅さんとともに、各地のいまは失われたもの、変化してしまったものが「動態保存」されている。だからこそ、ロケ地は、地元の人にとっては守るべき、シリーズのファンにとっては巡礼すべき「聖地」なのだ。

 評者の旅行作家、野田隆さんは「銀幕では永遠に保存されているものの、姿を消したローカル線や古びた街並みをたどるのは単なる懐古趣味ではなく、文明批判にもなっている」と評している。

  • 書名 『「男はつらいよ」を旅する』
  • 監修・編集・著者名川本三郎
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2017年5月26日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数B6判・288ページ
  • ISBN9784106038082
 

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