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芥川と上流婦人、軽井沢の秘めた恋の真相

書評掲載元:共同通信 9月10日配信 書評

越し人

 

 「芥川龍之介 最後の恋人」と文学史上語られている歌人の片山廣子がモデル。副題にもなっている。彼女はアイルランド文学の翻訳家でもある上流の未亡人だ。父親の代から避暑に逗留する軽井沢の老舗旅館を舞台に、芥川と友人の室生犀星、弟子の堀辰雄との交友が描かれる。

 

 東京に帰ったあと、廣子は芥川に手紙を出すが返事がなかった。そのかわり与謝野晶子の「明星」に芥川の歌25首が載った。「越しびと」と題され「あぶら火のひかりに見つつこころ悲しも、み雪ふる越後のひとの年ほぎのふみ。」などとあった。

 

 「芥川は廣子の誘いに乗らなかった。その返事が『越しびと』だろうか。近づき過ぎないほうがいいといわれているようにも思えた」と著者は書く。

 

 本書にはMという流行小説家と廣子との過ちも描かれている。参考文献には実名が挙げられているが、プラトニックな恋だった芥川との関係との対比が、廣子という生身の女性像を感じさせる。

 

 評者の島内景二氏(電気通信大学教授)は「『評伝』ではなく、虚実の交じった『小説』であるからこそ、深い余韻が生じた」と評価する。

 

 弟子の堀辰雄は、芥川と片山母娘をモデルに『聖家族』を書いた。本書でも軽井沢での交友をめぐる叙述は、高原の澄みきった空気のようにさわやかで心地よい。一転、戦後の混乱期、財産を失った主人公は清貧のなか、衣食のために書いた随筆が日本エッセイストクラブ賞を受賞するなど晩年まで著作活動を続けた。そのころ出版された芥川全集には「相聞」と題した未公開の詩があった。廣子が待ち焦がれた返答がそこにあった。

  • 書名 越し人
  • サブタイトル芥川龍之介 最後の恋人
  • 監修・編集・著者名谷口桂子 著
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2017年7月17日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六版・319ページ
  • ISBN9784093864749

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