ソウル在住35年のベテラン日本人記者黒田勝弘さんが、明治以来の日本と韓国の間の歴史的事件を解説しながら、「ぼくの日韓史」として綴った。
日韓のはざまを歩いた人を多く取り上げている。その一人が旧朝鮮王朝の李王家に嫁いだ日本人の李方子妃(1901-89)。生前にインタビューし、葬儀の模様も取材した。「沿道の韓国民たちには『亡国の恨みを超え、異国の王妃をこんなに温かく見送っていただいてありがとう』といいたかったのだ」と、感傷的になった理由について書いている。
著者インタビューの中で、日本にとって「痛恨の歴史」として挙げているのが、1895年に起きた閔妃(ミンビ)暗殺事件だ。当時の駐韓公使三浦梧楼をトップに軍人、民間人らが王宮を襲撃し、親露派だった王妃閔妃を暗殺したのだ。白昼堂々の蛮行。しかし、事件後に帰国した関係者は全員無罪となった。「あの無罪放免は、日本がその後の大陸進出の過程で『現地の独走』を許して国の方向性を誤った、その始まりだったと思う」と語る。
自身が「贖罪意識」から韓国とのつきあいを始めたと率直に明かす。しかし、それだけでは歴史の真実は見えないことがわかったという。その結果が本書である、と。
戦後の「贖罪意識」からイデオロギーの偏向が作家、文化人、マスメディアにあったとし、その筆頭に作家松本清張氏を挙げる。朝鮮戦争が北朝鮮の南進によって始まったのは、いまや歴史的事実だが、「北朝鮮ではなく米国の謀略によって引き起こされたというのが松本清張の謎解きだった」として、その著書『日本の黒い霧』などを断罪している。その北朝鮮幻想と反米意識が「戦後日本社会における朝鮮半島情勢の見方と北朝鮮に対する理解を大いに歪めたと思う」とも。
黒田さんは1980年に共同通信のソウル特派員として赴任し、当時の須之部量三ソウル駐在大使にあいさつに行き、「この地には足を二本とも入れてはいけない」という含蓄のある話を聞いたという。日韓関係は「引き込まれ」と「深入り」の歴史だったというのだ。北朝鮮をめぐる情勢が緊迫しているいまこそ、読まれるべき一冊だろう。
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