女性として初めて世界最高峰のエベレスト登頂に成功した田部井淳子さんを主人公に、直木賞作家の唯川恵さんが描いた長編小説。エベレストのほか、米アラスカにある北米最高峰マッキンリー、南極大陸最高峰ビンソンマシフなど7大陸最高峰を制し世界的な登山家の「淳子」だが、山を離れればごく平凡な女性にみえる。山頂めざし困難や危険に挑む冒険心とのコントラストが際立つ。
「女なんかに登れるはずがない」――。国内で数々の登山活動をこなしてきた淳子だったが、目標を海外の山々に向けるとそんな声を浴びせられ、生来の冒険心を奮い立たせた。「女子だけで海外遠征を」と「女子登攀隊」をつくって、まずはヒマラヤ・アンナプルナを目指す。
だが初めての海外遠征は資金繰りに難航、寝る暇もない膨大な準備、隊員同士の嫉妬、軋轢、分裂と大変なことだらけ。1970年、登頂は成功したが、苦い経験となった。
複雑な思いでいる淳子に「エベレストに行かないか」と声をかけたのは、ともにアンナプルナで苦労した隊長の明子。成功すれば女性として世界初だ。やはり登山家である夫の正之に「行くべき」と励まされ、淳子は決意を固める。困難はアンナプルナ以上だったが、それを乗り越え8848メートルの頂きに...。
著者の唯川さんは長野・軽井沢在住。愛犬が死んで感じるようになったペットロスを癒すため登山を始め、近くの浅間山には100回以上登ったという。田部井さんとの出会いも「山」が縁で、2014年に「山の日」(8月11日)が制定されるのを前にした対談だった。このときに、田部井さんをモデルにした小説を提案したという。
田部井さんのことを書くとなれば、国内の山々での登山を描くことはもちろん、そのハイライトが世界最高峰の登頂であることは明らか。唯川さんはその追体験のため、谷川岳や穂高からエベレストにも挑んだ。エベレストでは、事前に高度訓練などを重ねたが「私の場合は高度4410メートルのディンボチェ辺りから頭痛や吐き気に悩まされ、喩えるなら最悪の二日酔い」に。このエベレストでの辛い経験は「体調不良からアタック隊に選ばれずテントの隅でうずくまるしかなかった他の隊員の描写に生きたかもしれません」という。
作品は16年、信濃毎日新聞や中国新聞、神戸新聞など地方紙数紙で連載され、モデルの田部井さんは、その間の同年10月に亡くなった。唯川さんによると、田部井さんは連載を楽しみ愛読していたという
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?