「地政学」ということばが最近よく聞かれるようになった。国家の行動を地理環境と結びつけて考える学問だ。ロシアのクリミア侵攻、中国の東シナ海、南シナ海への展開について語る際に、しばしば使われる枠組みである。
一方では「地経学」ということばもあるそうだ。地政学的な利益を経済手段で実現しようという政治・外交手法のことで、2010年に中国が、レアアースの輸出を抑制して、日本に対し漁船船長を釈放させようと圧力をかけたのがその典型だという。
どちらも新しいことばではないが、米国のトランプ大統領の主張と言動こそが、「地政学と地経学の復活」を象徴しているとして注目されている。
本書は、独立系シンクタンクの日本再建イニシアチブ(船橋洋一理事長)が専門家をあつめ、日本が備えるべき13の地政学・地経学的リスクについて検証したものである。
米国のアジア太平洋戦略、中国が脅かす海洋安全保障、朝鮮半島危機、ロシア・リスク、気候変動、サイバー戦争など論点は多岐にわたっている。
評者の渡辺靖氏(慶応義塾大学教授)は「どの論考も手堅く、安定感があり、センセーショナリズムを排している点は好感が持てる。ただ、具体的な処方箋となると、総じてオーソドックスで、研究チームとしての斬新なビジョンや大胆な戦略が示されているわけではない。これはメンバーの力量の問題ではなく、むしろ日本の選択肢が限られていることの証でもあろう」と日本の限界を指摘している。
最終章「日本にとっての地政学、地経学リスク」において、加藤洋一氏(日本再建イニシアチブ研究主幹)は、米国との脅威認識のズレ、外交における価値のズレ、抑止力をめぐるズレを指摘している。また少子高齢化による国力の低下など日本自身もリスクになりかねないことも。
結論は簡単には見いだせないだろう。しかし、日本をとりまく国際環境にはこれだけのリスクがあることを知るだけでも意義はある。
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