日本で最近、建築の話題が注目を集めたのは、2020年東京五輪で使用される新国立競技場の設計をめぐる一連のゴタゴタだろう。当初のザハ・ハディド案が白紙となり、再コンペの結果、隈研吾・大成建設などが応募したA案が採用されることになった。このように、建築に対して「不透明」「高コスト」というマイナスのイメージがついてまわる。
ところが、世界的に権威ある建築の賞であるプリツカー賞を坂茂、伊東豊雄、SANAA(妹島和世と西沢立衛)と日本人が近年連続して受賞していることは、日本ではほとんど知られていない。この内外のギャップをなんとかしようと東北大学大学院教授(建築批評・建築史)の著者が書いたのが本書である。
世代ごとに切り分けて、日本人建築家の海外での活動を紹介している。第1章は戦前生まれのモダニズム建築を信奉した世代、第2・3章はその後の黒川紀章、磯崎新の世代、第4章は1940年代生まれの安藤忠雄、伊東ら、第5章はグローバリズムの流れに乗った50年代生まれの坂、妹島ら、第6・7章は、60年代、70年代生まれの国内外を意識しない世代と時系列に沿って、記述している。
台湾、中国、アメリカ、ヨーロッパで、これほど多くの建物を日本人建築家が手掛けたことを知り、驚いた。美術館、図書館などの公共建築のみならず、商業ビル、団地、病院などさまざまな建物がある。
評者の武田徹氏(評論家・専修大学教授)は「歴史を視野に入れて『なぜ』の理由を丁寧に探り、『都市が空襲で焼かれ、戦後、極端な住宅難から再出発したこと』が多くの設計の機会を彼らに与え、才能を開花させたと考える」と記している。
東京・銀座のはずれにある中銀カプセルタワービルは、黒川紀章がメタボリズムという概念によって建てた集合住宅(マンション)だが、いつもカメラをもった外国人旅行者がうろうろしている。日本人にはほとんど忘れられた建物だが、彼らにとっては、日本建築の生きた教材なのだ。旅行するということは、ただ珍しいものを食べたり買ったりすることではない。著者は「実は多くの時間は建築を見ることに費やしている」という。本書をかばんに入れて海外を訪れ、日本人建築家が手掛けたユニークでスケールの大きな建物を見ると、これまでにない感慨があるのではないか。現在が、日本建築のピークのひとつであることは間違いないようだ。
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