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混乱、恐怖、利権...原発事故をリアルに描く

書評掲載元:週刊ポスト(2017年8月4日号)書評

グラウンド・ゼロ 台湾第四原発事故

 台湾で「核四」とよばれる第四原子力発電所は、第一、第二と同じく北部で建設計画が進められていた。しかし、2011年の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故のあと、計画の中止を求める運動が一気に高まり、新世代作家の一人として注目を集めている著者が「現実への介入」を掲げて、この作品を手がけ13年に刊行された。

 実際の第四原発は11年の運転開始を目指していたが、前年に起きた火災などで延期に。その後の反対運動の高まりで無期延期の措置がとられた。

 本書では第四原発で15年10月に原因不明のメルトダウンが起きるという設定。台湾政府は北台湾地域を立入禁止にし、首都を台北から台南に移す。北部の住民を南へと疎開させるなど全土が大混乱に陥る。

 物語の主人公は、事故に遭いながら生き残った第四原発のエンジニア。事故の影響で記憶を失っていたが、あるきっかけから失われた記憶の中に事故の原因があると知る。一方、彼が記憶を取り戻すことに警戒する動きがあらわれ、エンジニアは監視されるようになった...。

 事故の背景にある台湾社会の腐敗や硬直した官僚機構、原発をめぐる複雑な利権問題がリアルに描かれ、評者の評論家、川本三郎氏は「パニック小説、サスペンス小説であり、政治小説でもある」と述べている。

 台湾では16年に蔡英文総統が就任。同総統は、選挙期間中から「25年までに脱原発実現」を公約。就任後は、再生エネルギーで原子力の代替にしようというプランを進めている。川本氏は「台湾が民進党の蔡英文総統の下で、脱原発を宣言したのもこの小説を読むと理解できる」としている。

  • 書名 グラウンド・ゼロ 台湾第四原発事故
  • 監修・編集・著者名伊 格言 著、倉本 知明 訳
  • 出版社名白水社
  • 出版年月日2017年5月 2日
  • 定価本体2700円+税
  • 判型・ページ数四六判・334ペー
  • ISBN9784560095409
 

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