カラッつゆ!とも言える今季の梅雨。
だが、降れば流石に心の深い所が
しっとりする。
梅雨時の湿気たっぷりの雨には、
メランコリーにする薄い孤独感があるもの。
そんな雨の日に読むなら
『読後に読者を幸福にするものであるべき』
物語がいい。
この物語は、そんな読後感が温かくて
『世界にはこんなに愛と幸せにあふれた物語りが
あるんだよ』と伝えたくなるような物語が描ける
作家・子守響呼がヒロイン。
やわらかな幸福感に満ちる作品の一方で、
響呼自身は、自分に関わる者全てが不幸になる、と自己の存在を
強烈に否定しつつ、世間に対して心を閉ざして生きていた。
その閉鎖性を強化するような”あやかし”- 目に見えない存在が見える -
の瞳を持ちながら。
一歩外に出ればそこそこ人気の女流作家だが、極力目立たず生きて
いたい、そんな響呼の日常に突如起きた住んでいたアパートの崩壊騒ぎ。
一瞬にして居場所を失った彼女は、ある2つの出逢いに導かれるように
して『竜宮ホテル』で暮らすことになる。往年のハンサム俳優かつ作家、
妖怪の猫少女、未来からやって来た美少年、亡霊達...と
心優しく不思議なバックグラウンドを持つ人々と存在が暮らす、
絵に描かれたようなクラシカルなホテルに。
そこで繰り広げられる人間関係や出来事は、
不可思議、魔法チック、超常現象的な事の連続です。
ですが、その非論理的ゆえに砂糖菓子のような
ほのかな甘さと匂いが一貫して物語を包み込み、
浮遊感満ちたお話ではあるものの、
スーパー・ファンタスティックなお話では終わりません。
孤独を清々しく消化しながら独り生き抜こうとする
響呼のハンサムガールな現代的生き方も、
この物語にあふれる”夢うつつ”感を支えています。
そして、何より私の胸に一番響いたのは
「ていねいな日本語」でした。
全ての登場人物が話す美しい日本語は
物語に流れている幸福感の濃度を増してくれています。
読むなら『読後に読者を幸福にするものであるべき』本がいい....
梅雨も後半、残り少ない長雨の雨の降る日に
どうぞあなたもこの1冊をお手にとってみて下さいね。
【局アナnet】
三浦まゆみ(気象予報士、アナウンサー)書 名:竜宮ホテル
著 者:村山早紀
発売日: 2013/5/2
定 価:¥660(税込)