「あなたも魔法が使えている。」
と聞くといかがでしょう?
それは"有り得ない"と即レスしてしまう。
ですが、心のどこかに
なぜかひっかかるフレーズです。
ジブリ映画でもすっかりお馴染みの
『ハウルの動く城』。魔法が本当に日常に存在する国で起きた、
魔法使いと魔女の闘いのお話。
いいえ、若き魔法使いと
魔女に魔法をかけられた少女”の
ラブストーリー”です。
魔女に呪いをかけられて老婆にされた
少女ソフィーは、3姉妹の長女。
長女であるがゆえの面倒見の良さと
忍耐と、奉仕というより他人のために
自らの望みを諦める性格です。
「いつだってうまくいかない!
だって長女なんだから!」と、
望み通りに運ばない事に遭遇するたびに
心の中で唱えつつ、家業の帽子屋のお針子として
半ば店を継ぎながら暮らしています。
18歳、お年頃の女の子には
ともすればつまらないそんな日常に登場したのは、
ドンファンかつ人非人、女子達の魂をコレクションすると
噂されるちょっぴり美青年の魔法使いハウルでした。
このふたり、ふたりを囲む姉妹のレティー、マーサ、
火の悪魔カルシファーらに起きた事件のあれこれと
その展開は映画でもお馴染みでしょう。
ハウルの家である動く城の内と外で繰り広げられる魔法使い
同士の闘いは、ヒーローのハウルが勝つ!というハッピーエンドは予想済み。
ですが、感触さえ掴めるような登場人物の姿や風景の色彩と
匂いの中で展開する物語のスピード感は、
その予測もどうなるんだろう~のハラハラドキドキ感に満たされています。
著者ダイアナの言葉の豊かさと感性をストレートに伝えて
下さる訳者西村さんのしなやかな翻訳の力のおかげでしょう、映画とは違った濃い臨場感をもって、魔法が存在する世界を
楽しめます。
そんな夢の世界の中ですっかり童心に帰りながらも、
私達も自然に"魔法"を使っていることの気づきが生まれます。
『何もうまくいかない。だって長女なんだから・・・』
「だって・・・だから....できない/しない。」
自らも周囲も当たり前に使っている呪文の一つかも
しれません。
繰り返し心の中で口にしながら生きている...特に大人達。そして、その通りの現実を作っている、にハッとするのです。
「実は、あなたも魔法を使えています。」
そう、まさにその通りです。
どうせ使える魔法なら、呪文はなんと唱えましょうか。
ヒントはこの物語の最後の最後のところで掴めるはず。
ハウルのプロポーズを受けるソフィーの返事に
それを見つけて下さい。
物語を読み終わる頃、あなたの人生も実は魔法だらけ、
夢に見ている仕事や愛のハッピーエンドも実は夢ではない、
ことに気づける....かもしれません。
【局アナnet】
三浦まゆみ (気象予報士・アナウンサー・翻/通訳)
書名:ハウルの動く城1
魔法使いハウルと火の悪魔著者:ダイアナ・ウィン・
ジョーンズ
西村 醇子(訳)発売日: 2013/3/1
定 価:680円(税込)出版社: 徳間書店