◆◆「静かなる恐慌」が始まっている◆◆
100年に1度の危機だと喧伝されたリーマン・ショックから、早くも4年。世界経済は「破局」にいたらず、EU危機の深刻さが増しているといっても、ある種、「不景気」慣れをしてしまった日本人には、対岸の火事にしか見えない。
しかし、そんな折に、日本人が体感できていないだけで、実際は「静かなる恐慌」なのだ、と警鐘を鳴らす、新進気鋭の経済思想家があらわれた。滋賀大学経済学部准教授の柴山桂太氏だ。
「リーマン・ショックの際にはじけたバブルの大きさを見れば、戦前の大恐慌前のバブルに匹敵するか、あるいはそれ以上の規模ですから、この経済危機は相当なものです。
にもかかわらず、2008年のリーマン・ショック以降の経済危機が、おだやかに見えてしまうのはなぜか。それは各国の政府がなりふりかまわずに、企業を救済し、金融緩和で市場にお金を流し、財政出動を行って、あの戦前の世界恐慌のようなパニックを防いでいるから、というだけのことなのです。バブル崩壊後の債務デフレは長引くので、たとえて言えば、今は止血剤を施したという段階です。その処方の副作用が問題化してくるのはこれからです。」
しかも、柴山氏によれば、現在の恐慌によって影響を受けるのは、いわゆる経済分野だけではなく、世界経済の混乱が長引けば、各国は争って他国の需要を奪いあい、国際関係にも大きな影響があるという。
「東アジアの情勢が、緊迫しているのも、中国や韓国の経済が失速していることと無関係ではありません。」
◆◆グローバル化の罠――経済戦争から本物の戦争へ◆◆
さらに重要なことは、戦前の大恐慌も世界大戦のいずれも、20世紀初頭にピークを迎えた第一次のグローバル化が問題の根っこに存在している、というのだ。
「グローバル化というと、ポジティブな面ばかり日本人は見る傾向がありますが、世界が密接に結びついた、資本移動の激しい時代の経済は、非常に不安定で、脆弱なのです。
しかも、世界的な恐慌を引き起こすだけでなく、急激な経済の崩壊は、国家間の対立にまで発展してしまうでしょう。実際、歴史を振り返ってみれば、第一次グローバル化は第一次世界大戦、第二次世界大戦という二つの戦争によって終わったのです。つまり、第一次グローバル化は平和をもたらすどころか、経済戦争で始まった国家間の対立が、戦争にまでいきついてしまった。」
そうした歴史の教訓を踏まえたうえで、グローバル化の意味を問い直してほしい、という意図のもと、柴山氏、初の著作が書き下ろされ、発売と同時に、新聞、テレビでも話題になり、注目を集めている。それが、集英社新書『静かなる大恐慌』だ。
識者たちからの賛辞も届いている。「TPP亡国論」の著者、中野剛志は、「資本主義が未曾有の危機に突入した今、思想家・柴山桂太氏の「時代をとらえる力」が、どうしても必要だ。」と述べている。評論家・西部邁氏も「『グローバル化は必ず恐慌を引き起こす』と断言したのは、この本が初めてだ。」と、「静かなる大恐慌」を評価した。
「20世紀前半のグローバル化がなぜ失敗したのか、そこを考えないと我々は、同じことを繰り返してしまう」と柴山氏自身が述べているように、経済という枠組みを越えて、グローバル化を根底から私たちは考える時期にきているのだろう。
『静かなる大恐慌』特設サイト
http://shinsho.shueisha.co.jp/shibayama/集英社新書
http://shinsho.shueisha.co.jp/書名:静かなる大恐慌
著者:柴山桂太
発売日:2012年9月14日
定価:777円(税込)