インターネットや街頭宣伝を駆使して、在日外国人への誹謗中傷を繰り返す、日本最大規模の「市民保守団体」在特会(ざいとくかい=在日特権を許さない市民の会)。現代日本が抱える、この新たなタブー集団の実態を描いたノンフィクションが『ネットと愛国』だ。
九州出身の「もともとは地味で目立たなかった」男が上京し、およそ10年で「カリスマ会長」として在特会を立ち上げるまでの経緯や、街宣時は凶暴なレイシストでありながら、普段はごく普通の若者らしくふるまう会員たちの本音や生活などが、丹念に綴られている。
特に、在特会が強硬に主張する「在日特権」、つまり在日外国人に不当に与えられた各種の特権が、本当に存在するのかを徹底検証した第5章は、読み応えがある。
さらには、同会に対し1000万円もの巨額カンパを行った女性や、同会に一般人男性が「抗議活動を依頼」し、その抗議が複数の逮捕者を出した事件、また最近話題となった「フジテレビ抗議デモ」の主催者など、本書で初めて明らかになるエピソードや人物も随所に盛り込まれている。
約1年半に及ぶ徹底取材を行った著者の安田浩一氏(47歳)は、「会の悪口を書いた」などと在特会会長から不当な批判を受け、一方的に「取材禁止」を宣告された。だがその後も在特会の活動現場に足を運び、罵声を浴びながら彼らの声にひたすら耳を傾け続けた。
その結果、一部会員の中には彼に心を開く者も現れ、単なるレイシズム批判一辺倒ではない、重厚な深みのあるルポルタージュに仕上がっている。
「私は彼らを批判する目的でこの本を書いたわけではない。たしかに彼らの排外的な言動には反吐(へど)が出るし、1パーセントの理解も及ばないが、それでも彼らの活動が、一部市民の熱烈な支持を集める"大衆運動"として勢いを得ているのは厳然たる事実だ。在特会の背後には、彼らの罵詈(ばり)雑言に快哉を叫ぶ、決して少なくない人々が存在していると思う」
かつて左翼党派に出入りし、社会運動に失望した過去を持つ著者は、彼らがなぜ大衆運動として魅力的なのかを知りたかったと語っている。
書名:ネットと愛国
著者:安田浩一
発行日:2012/4/18
価格:1785円