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28歳青年「極刑」は妥当か 手紙が語る「死刑囚」の"素顔"

 日本で裁判員裁判がスタートしてから、今年(2012年)8月で3年を迎える。この間、死刑判決となる裁判もあったが、その場に立ち会った裁判員たちの辛苦は並大抵なものではなかっただろう。裁判員制度「初」の死刑判決の日からさかのぼること39年。ある28歳青年に対して死刑が執り行われており、その陰にも、「判決」に思い悩んだ法曹関係者たちがいた。

   ここに1冊の本を紹介したい。フリーのドキュメンタリーディレクターで、第32回講談社ノンフィクション賞を受賞した『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』などの著作がある堀川惠子氏が2011年3月29日に上梓した『裁かれた命 死刑囚から届いた手紙』だ。

   "死刑囚"とは、東京・国分寺市で主婦を殺害して現金を奪い、1968年4月に最高裁で死刑判決が確定し、3年半後に刑の執行を受けた長谷川武氏(当時28歳)。

   長谷川氏が手紙を送った相手は、1審で死刑求刑につながる捜査を担当した検事・土本武司氏(刑事法学者、元白鴎大学法科大学院長)ほか、二審で私選弁護人を引き受けた元東京高裁裁判官で弁護士の小林健治氏(故人)、そして母親らだが、その文面からうかがえるイメージは「死刑囚」のそれとはほど遠く、本当に「死刑」が妥当なのかと思ってしまう清廉なものだった。とりわけ、小林氏は裁判官時代に10件の死刑判決を下している。死刑の重みは十分肌で感じているはずだ。その小林氏をして、長谷川氏に対する死刑判決には疑問を感じざるを得なかった。

   著者の堀川氏は、長谷川氏の裁判にかかわったあらゆる人に、可能な限り接触し、その人物像を浮き彫りにしている。巻末に寄せた堀川氏のことばの中で、強く心に響くのが、以下のくだりだ。

    「死刑という問題に向き合うとき、いったいどれほどの人間が、同じ人間に対してその命を奪う宣告をすることが出来るほどに正しく、間違いなく生きているのかと思うことがあります。そして、その執行の現場に立ち会う人間の苦し
みも想像を超えるものがあります」

   裁判員制度がある以上、我々もいつ「死刑判決」に関わるかわからない。人が人を裁くことの意味をいま一度考えるためにも、『裁かれた命 死刑囚から届いた手紙』を手にし、長谷川氏の手紙から何かをつかみとることが必要なのかもしれない。

書名:裁かれた命 死刑囚から届いた手紙
著者:堀川惠子
発売日:2011年3月29日
価格:1995円

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