〈消齢化〉ということばを耳にしたことがあるだろうか。
年代・年齢によって大きかったさまざまな好みや価値観の差が、近年小さくなってきている現象を指す。この〈消齢化〉を研究している博報堂みらい博2023によると、「男性でも育児休暇を取るべき」「親戚づきあいは苦手」といった200以上の項目で、「はい」と答える人の割合の、年代による差がなくなってきている。
本にもこの〈消齢化〉が起こっているのではないか。そう指摘するのが、ビジネス書を10分で読める要約サービスflierを運営する、株式会社フライヤーの井手琢人さんだ。
flierの年代別閲覧ランキングでは、20代・30代・40代・50代・60代のうち、4世代以上のトップ10に共通してランクインした本が、2014~2015年では2冊だけだったのに対して、2022~2023年では6冊に増加している。反対に、1世代のみにランクインした本は、2014~2015年の13冊に対して2022~2023年は5冊にまで減少している。こういった本の〈消齢化〉には、どのような背景があるのだろうか。
井手さんは出版社へのヒアリングをもとに、「今、ビジネス書は読者の〈消齢化〉をつくりに行っている」と分析している。
「出版社が率先して、年齢の壁を壊そうとしていると感じています。出版不況の今、ターゲットを絞りすぎるとなかなか売れません。〈消齢化〉を狙って、より幅広い読者層に本を読んでもらい、不況を打破しようとしているのです。」(井手さん談)
たとえば、ミリオンセラーとなった『人は話し方が9割』(すばる舎)は、ビジネス書でありながらビジネス以外の人間関係にも活かせる内容のため、普段ビジネス書を読まない層にも読者が広がった。年齢・性別を問わず手に取ってもらえるよう、著者の色を出さず、シンプルな見た目にする工夫がされているという。
ビジネス書ベストセラーの中には、主婦層によく読まれている本もあるという。「ビジネス書には、日常生活に役立つ普遍的な内容も多い。難しそうだと敬遠せず手に取ってみてほしい」と井手さんは語る。
ビジネス書以外のジャンルでも〈消齢化〉は起きているのだろうか。出版物の動態調査を行う出版科学研究所は、「ライトノベル、マンガ、ゲーム関連書を大人も読むようになった」「女性誌はかつて年代別にはっきりと分かれていたが、その差が曖昧になりつつある」という見解を寄せている。またポプラ社の一般書編集長・吉川健二郎さんは、「読者が好むジャンルが、各年代の中でも細分化してきている」と感じているという。年齢にとらわれない関心のあり方が広がっているようだ。
KADOKAWAで実用書編集を手がける松尾麻衣子さんによると、本を企画する際にはターゲットの年齢層をしっかり決めているそう。一方で、いざ売り出してみると思わぬ層にも読者が広がる場合が増えたという。そのカギとなっているのがSNSだ。
「筒井康隆さん著『残像に口紅を』(中央公論新社)がTikTokで話題になり、リバイバルしたのが代表的な例ですね。今の時代は、どこでどんなきっかけでバズるのか予測がつかないのが面白いなと思っています。」(松尾さん談)
松尾さんが手がけ第10回料理レシピ本大賞を受賞した、まるみキッチンさん著『やる気1%ごはん』も、SNSを通じてベストセラーになった作品だ。発売当初は編集部の狙い通り、働く女性や子どもがいる女性が読者の中心だったが、X(旧Twitter)・YouTube・TikTokで話題にのぼり、年齢や性別を越えて読まれるようになった。
『やる気1%ごはん』は、料理の写真を使わない真っ黄色の表紙が特徴的。「レシピ本っぽさ」が薄く誰でも手に取りやすい。また、まるみキッチンさんはXで100万人のフォロワーがいる(2023年11月2日現在)が、本書はあえて著者を前面に出していない。『人は話し方が9割』と同じような工夫がされている。
若者だけでなく大人にとってもSNSが当たり前になったという意味での〈消齢化〉も、読者の広がり方に影響している可能性がある。同じくKADOKAWAの編集者・田宮昭子さんによると、はらぺこグリズリーさんのレシピ本『世界一美味しい手抜きごはん』は、一人暮らしや共働きなどの若い世代向けとして作ったが、60~70代の読者にもよく読まれているという。またベストセラーとなったFさん著『20代で得た知見』も、若者から大人世代へと読者が広がっていった本だ。
「今の時代は何がきっかけでヒットするかわからない。SNSで話題にしてもらいやすいように、できるだけ目に触れる機会を増やす努力をしている」と松尾さんは語る。これからさらに、年齢にもジャンルにもとらわれずに新しい本と出合える時代になっていきそうだ。
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