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イタリア語も英語も話せない私が見つけた最強ツール【ローマで居候】

なかざわ とも

なかざわ とも

(連載タイトル)ローマで居候

 イラストレーターのなかざわともさんが「ちょっとだけローマ暮らし」をつづる連載『ローマで居候』。1カ月間のイタリア語学学校を終え、なかざわさんを変えた「想定外のできごと」とは? クラスメイト全員集合のイラストも必見です!

ローマで居候 vol.7 なかざわとも

イタリア語を学びに行ったのに

 毎日が目まぐるしく、時間が経つのはあっという間だった。1カ月の受講期間も終わりが近づいている。前回を読んでいただくと、何事も調子良く上手くいったような感じがするかもしれないが、実際そんなことは全然ない。

 こちらに歩み寄ってくれる相手との、一対一の会話ではまだ頑張ることができたが、集団の会話となると一気についていけなくなる。語学学校が主催する、街歩きのナイトツアーに参加したときはそのことを痛感した。

 各クラスの希望者が集まって、講師の説明(イタリア語)を受けながらローマ時代の遺跡を歩く、ゆるっとした課外学習だ。午後7時、学校前に集合したのは20名弱の生徒たち。勝手に友達を連れてきている人もいて、賑やかな一群となった。自分なりに勇気を出して初めて会う人に話しかけるが、会話の輪が広がると英語話者のテンポにはついていけない。

ナイトツアーのイラスト

 最終的に一行はピザ屋に辿り着いた。その店で、夜ごはんを食べることになっていたのだ。その時点で私は、ぐったりと疲れていた。会話は盛り上がるけれど、私だけ半分くらいしか理解できない。いちいち意味を尋ねるわけにもいかず、宇宙船の中に迷い込んだような心地である。終電の時間になったので、内心ホッとしながら先に店を出る。夜のローマの街を一人、孤独を噛み締めながら足早に駆け抜けた。

 「英語さえしゃべれればなぁ...」イタリア語を学びに行ったのに、何度も悔しく思ったのは英語が話せないことによる隔たりである。

イラストの持つ力を実感

 もどかしさの中で私にとって救いとなったのは、イラストだった。

 教室の休憩時間に絵を描いていると、先生が興味深げに覗き込んできた。描いたものを見せると、大げさと思えるくらい驚き褒めてくれたのだ。私から絵を受け取ると「これトモが描いたんだって」とクラスメイトに見せびらかす。クラスメイトが絵を見てから「いいね!」と私に微笑みかける。

 自分の発したものを相手に受け取ってもらい、相手から反応が返ってくる。このやり取りは言葉を抜きにした、一枚の絵でも成り立つのか!と驚いた。私は味を占めて、上手くもないイラストを恥ずかしげもなく教室で見せるようになる。

アラ パキスのイラスト

 講座もあと数回で終わるころになると、覚えたイタリア語は、店やバスなどで気軽に試すことができた。学ぶことのすべてが新鮮で、自分の物覚えの悪さに苦戦しながらも、文法の決まりや単語を一つひとつ覚えるのは、楽しかった。

 私はちらりと良いアイデアを思いついた。授業の最終日にクラスメイトの似顔絵を描いて、皆からサインをもらおうと思ったのだ。それは自分の思い出のためでもあり、「喜んでもらえるんじゃないか」という単純な思いからだった。私は放課後に公園に寄って、絵葉書サイズの紙に教室の絵を描いた。(広々としたボルケーゼ公園の木陰は絵を描くのに最適な場所である)

 クラスメイトや先生のことを思い浮かべながら手を動かすと、うまくいったこと/いかなかったこと、嬉しかったことや悔しかったことなどが懐かしく思い出されて、少し笑ってしまった。

 最終日の休憩時間に描いたものを見せると、想像以上に温かい反応が返ってきた。私は一枚の紙切れに込めた、自分の「この教室で学べて嬉しかったよ」という思いが伝わったと確信し、イラストの持つ力を思い知った。

クラスメイトの似顔絵

 一人ひとりにサインを書き込んでもらってから手元に戻ってきた小さな絵は、なにかぬくもりと重さが増したように感じられた。この絵は大切に保管しようと心に決めた。

 授業の後半は、2人1組になって互いの将来の夢をインタビューしあう時間があった。私は「特に思いつかないな」とペアであるブラジル人の女の子に言うと、「じゃ"有名なイラストレーターになること"でいいじゃない!」と彼女は笑顔でテキパキと言い放った。インタビューの結果は全員の前で報告する。彼女が「トモの夢は"有名なイラストレーターになること"です」と言うと、先生はこちらを見てにっこりと微笑む。隣の席に座るスペイン人の中年男性は身体をこちらに向け、「スペイン語ではこういうとき、こう言うんだよ」と目を細めながら何かスペイン語の言葉をかけてくれた。意味はわからないけれど、祝福を受けたような心地がして、くすぐったく嬉しかった。

 こうしてあっという間に1カ月の語学学校が終わりを迎えた。イタリア語を学びに行ったのに英語の重要さを思い知り、言葉を使わないコミュニケーションとしてのイラストの力を信じられるようになった。これは想定外ではあったけれど、大きな発見であり、喜びであり、これから先の人生の支えになりそうな出来事だった。

 ローマに来て2カ月。心なしか姿勢が良くなった気がする。

In bocca al lupo!

 今回は、イタリア語ならではのエールの言葉を紹介しよう。

In bocca al lupo!(イン・ボッカ・アル・ルーポ!)→がんばれ!

直訳では「狼の口の中に(飛び込む)」という意味だが、相手の背中を一押しするときによく使われるのだという。つい気持ちが大きくなり「いつかローマで絵の仕事をしてみたいな」と口からこぼしたとき、先生が「絶対だいじょうぶ!In bocca al lupo!」と声をかけてくれた。「Crepi!」(クレーピ!)→(狼なんか)くたばれ!と返すのがお決まりらしい。

イラスト・文 なかざわ とも

■なかざわ ともさんプロフィール
1994年生まれ、東京在住のイラストレーター。学習院大学文学部卒。セツモードセミナーを経て、桑沢デザイン研究所に入学。卒業後、イラストレーターとして活動を開始。





 


  • 書名 (連載タイトル)ローマで居候
  • 監修・編集・著者名なかざわ とも 文・イラスト

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