勉強もせず、遊んでばかりの我が子。将来が不安になるが、外で「みんなと一緒に」遊んでいれば、親としては安心だ。少なくとも、ひとり部屋にこもってゲームやSNSを長時間やっているよりは、ずっとマシ。そんな風に思っている親御さんは多いだろう。
もちろん、友だちと遊ぶことで刺激を受けたり、社会性を身につけたりすることも大切だろう。しかし「ひとりあそび」こそが、子どもの生きる力を育むとしたら?
『ひとりあそびの教科書』(河出書房新社)は、批評誌「PLANETS」等の編集長を務める評論家・宇野常寛さんによる「ひとりであそぶ」ための本。中学生以上~大人を対象に、考える力を鍛えるラインナップが揃う「14歳の世渡り術」シリーズとして刊行された。
「君たちは周りの大人たちから『あそんでばかりいないで勉強しなさい』とか『あそんでばかりいると、将来に苦労するぞ』とか言われることも多いんじゃないかと思う。けれどもこの本はその逆で『もっとあそんだほうがいいぞ』と勧めるために書かれた本なのだ」
本書では、街に走りに出てみよう、生き物たちに触れてみよう、ひとりで「旅」に出てみよう、「もの」をたくさん集めてみよう、ゲーム「で」しっかりあそんでみよう......など、宇野さんが子どもたちに伝えたい、友だちと仲良くいっしょにやるのとは別の、「ひとり」で夢中になれる遊びの数々を紹介している。
「子どもにはあそびが大事」という大人は、たいてい「みんなと一緒に」あそぶことを指している、と宇野さんは指摘する。
「大人たちは君たち子どもが友だちと仲良くして『みんな』で『あそぶ』ことは大事なことだと思っている。(中略)でも、この本で教える『あそび』はそれとは真逆のことだ」
たくさんの人たちと一緒にあそぶよりも、ひとりで孤独に取り組むあそびをより重視する宇野さん。ひとりであそぶ方法をよく知っている人は、自分で考えることができる人が多いのだという。
宇野さんによれば、「世界には二通りの人間がいる」。1つ目は、いつも誰かの顔色を伺い、自分が他の人からどう見えているかによって自分の振る舞いを決めている人。もう1つは、自分の考えがしっかりとあり、その上で自分の考えを通すために周りの人たちとどう関わるかを考えている人だ。
そして、宇野さんの経験上、前者は「みんな」であそぶことばかり考えていることが多く、後者は「ひとり」であそぶ方法をよく知っていることが多いのだそう。
宇野さんの語り口は、教室の中心にいるのが苦手な、端の席で静かに本を読んでいるのが好きなタイプの子どもに勇気を与えてくれる。
たとえば、第4章「『もの』をたくさん集めてみよう」の中で、宇野さんは子ども向けのミニカー「トミカ」を収集している自身の趣味について語っている。トミカには基本の150種類のシリーズがあり、毎月第3土曜日に2種類ずつ入れ替わるのだが、このトミカを10年ほど前から毎月のように買っているそうだ。
毎月決まって買うものがあるだけで、1か月が経つのが楽しくなる。そう話す宇野さんは、トミカの「新車」の発売日を毎月楽しみに待ち構えていて、近所のヨドバシカメラに走るのだとか。
「なんでもいいので、こうした小さな楽しみをたくさんつくっておくと、人生に退屈しないですむ」
このトミカを始め、仮面ライダーのフィギュアやレゴブロック、プラモデルなどの収集がいかに魅力的かを語る生き生きした筆致には、思わず自分も真似してみたくなる力がある。
SNSでの反応に一喜一憂しがちな現代こそ必要とされているのは、「ひとり」でできる「あそび」に熱中することなのかもしれない。
■宇野常寛さんプロフィール
1978年生まれ。評論家。批評誌「PLANETS」「モノノメ」編集長。著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)『遅いインターネット』(幻冬舎)『水曜日は働かない』(集英社)『砂漠と異人たち』(朝日新聞出版)ほか。
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