2023年5月10日、世界で初めて発見された動物のことば「シジュウカラ語」を使った絵本『にんじゃ シジュウカラのすけ』(世界文化社)が発売された。監修を務めたのは、「シジュウカラ語」が言語であることを発見した動物言語学者の鈴木俊貴さん。今回は、鈴木さんがいかにして「シジュウカラ語」の存在を証明したのかを紹介する。
鈴木さんが初めて「シジュウカラ語」に出会ったのは、2005年、大学3年生の頃だった。卒業論文のテーマを決めようと軽井沢を訪れていたとき、シジュウカラの「ヂヂヂヂッ」という鳴き声が「集まれ」という意味を持っていることに気づいた。ところが、図鑑には「ヂヂヂヂッ」は「警戒を表す」鳴き声であると書いてある。自分の方が正しいと確信した鈴木さんは大学院に進み、シジュウカラの研究を深めていった。
研究の中で、シジュウカラが天敵のヘビに対して『ジャージャー』という鳴き声をあげる場面を目撃した鈴木さんは、「この『ジャージャー』は「ヘビ」という単語になっているのではないか」と考えた。そして約10年にわたる研究の末、この仮説が事実であることを証明するに至った。
ところが、この研究だけでは、シジュウカラが「単語」を使うことはわかっても、「文法」を持つかどうかまでは分からなかった。文法の存在が証明できなければ、人間の言語と同じ扱いで「シジュウカラ語」と呼ぶのは難しい。だが、前例のない分野だけに、文法の存在を証明するための実験方法は確立されていなかったという。
そこで役立ったのが、タレント・ルー大柴さんの使う「ルー語」だ。ルー語とは、日本語の文章の一部を英語に置き換えたもので、たとえば「逆鱗にタッチ(触れる)」、「藪からスティック(棒)」などと表現される。日本人は、日本語も簡単な英単語も知っているから、この「ルー語」を簡単に理解することができる。
もともとルー大柴さんが好きで、よくルー大柴さんのYouTubeチャンネルを見ていた鈴木さんは、この「ルー語」のように、別の動物の言葉を「シジュウカラ語」に混ぜる実験を思いついた。
シジュウカラは「ピーツピ・ヂヂヂヂ(「警戒・集まれ」という意味)」という言葉を話すが、「ヂヂヂヂ・ピーツピ」と順番を入れ替えると何も反応しなくなる。ここに「『警戒』が先、『集まる』が後」という文法上のルールがあるのではないかと考えた鈴木さんは、その文法に当てはめて、彼らが一緒に群れを作る別の鳥の言葉を混ぜるという実験を行った。
具体的には、「ピーツピ・ヂヂヂヂ」の「ヂヂヂヂ」の部分を、別の鳥が使う「ディーディーディー(「集まれ」という意味)」という単語に置き換えてみた。すると、仮説通りに意味が通じたという。動物の言葉にも文法が存在することを証明したこの実験結果は、2017年に論文として発表され、大きな話題を呼んだ。「ルー語」を参考にした実験が、有史以来の科学的常識をひっくり返したのだ。
絵本『にんじゃ シジュウカラのすけ』は、こうして発見された「シジュウカラ語」を、子どもたちが楽しめる絵本にしたもの。もちろん、研究で使われた「ピーツピ・ヂヂヂヂ」も登場する。
鈴木さんは絵本の発売に「少し前まで、鳥に言葉があるなんて誰も信じていませんでした。小鳥の忍者が見つかる日もそう遠くないかもしれません」とメッセージを寄せている。
■鈴木俊貴さんプロフィール
すずき・としたか/1983年、東京都生まれ。動物言語学者。2002年に東邦大学理学部生物学科に進学し、シジュウカラの言葉と出会う。東京大学教養学部学際科学科助教、京都大学白眉センター特定助教などを経て2023年から東京大学先端科学技術研究センター准教授。シジュウカラの研究で、2018年に日本生態学会宮地賞、2021年に文部科学大臣表彰若手科学者賞と日本動物行動学会賞を受賞。小鳥博士、シジュウカラ語マスター。
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