大会は終わったが、WBC熱はまだおさまらない。『WBC2023 メモリアルフォトブック』(世界文化社)が累計12万部を突破するなど、侍ジャパン世界一への興奮と感動は、いまなお余波が残り続けている。
そんな中で注目を集めているのが、指揮官として日本代表を率いた栗山英樹監督の著書『栗山ノート』(光文社)だ。2019年、北海道日本ハムファイターズの監督を務めていた頃の著書だが、WBCをきっかけに再び脚光を浴び、大幅重版が決定。4刷2万2000部を加え、3月29日までに累計5万部を達成した。
栗山監督には、小学生の頃から書き続けている「野球ノート」がある。そこには、日々の戦績、プレーの細かな振り返りに加え、監督として人間としての"哲学"が書き込まれている。この門外不出のノートを、書籍としてまとめたものが『栗山ノート』だ。
球界きっての読書家としても知られている栗山監督の教養は、経営者や企業家の言葉にのみならず、小説、古典にまでおよぶ。そして読んで気になった言葉は、その都度ノートに書きとめ、思いや考えをまとめているのだという。
どのような言葉に刺激を受け、どのような考えのもと、どのように指揮をとってきたのか。『論語』『書経』『易経』......先人に学び勝敗の理由を考え抜いた先に綴った、組織づくりの要諦とは? 常識を覆し、感動を呼んだ名采配のバックボーンに触れられる1冊だ。
2012年、栗山監督は指導者経験のないままファイターズの監督へ就任し、新人監督ながらリーグ優勝を果たした。ところが翌年、チームは一転して最下位に沈んでしまう。惨憺たる成績が続く中、敗戦後インタビューで目立ったのが、「俺が悪い」と責任を引き受け、選手を責めない姿勢だった。
個々人の成績が厳しく評価されることが当然のプロ野球で、なぜそのような態度をとったのか。本書の中でも栗山監督は、選手のケガについて「ケガ人が出てしまうのは監督の責任」であるとしている。それは、ケガをしたいと思っている選手などおらず、練習の組み方や緊張感の持たせ方が違えば防げたケガもあるからだという。
「うまくいかないことがあったら、自分に矢印を向けてその原因を探る」。栗山監督はそう書いている。このポリシーが、選手を責めない姿勢につながっているのかもしれない。
栗山監督は今大会で、33歳年下の大谷翔平選手をはじめ、年の離れた若い選手・コーチたちを率いた。年齢差のある難しいコミュニケーションに、どう対応したのだろうか。
まず、若い選手とのやりとりでも、上から目線の言葉は使わないという。連絡を受けた際の返信も、「了解」ではなく「了解しました」や「了解です」と書く。「相手に使ってほしい言い回しを、まず自分が使う」ようにしているという。
また、コーチ陣にはいつも、「僕より野球をよく知っているから、ここで仕事をしてもらっているのだよ」と伝える。コーチを任命したのが自分である以上、信頼して仕事を任せるべきであり、やるべきは「コーチの話をしっかりと聞き入れ、それでいいのかどうかを判断すること」である、と書かれている。
■栗山英樹さんプロフィール
くりやま・ひでき/1961年生まれ。東京都出身。創価高校、東京学芸大学を経て、1984年にドラフト外で内野手としてヤクルト・スワローズに入団。1年目で1軍デビューを果たす。俊足巧打の外野手で、89年にはゴールデングラブ賞を獲得。1990年のシーズン終了後、怪我や病気が重なり引退。引退後は解説者、スポーツジャーナリストとして野球のみならずスポーツ全般の魅力を伝えると同時に、白鴎大学の教授として教鞭を執るなど多岐にわたって活躍。2011年11月、北海道日本ハムファイターズの監督に就任。同年、監督1年目でパ・リーグ制覇。2016年には2度目のリーグ制覇、そして日本一に輝き、正力松太郎賞を受賞。2019年時点の監督で最長の就任8年目を迎え、同年5月、監督として球団歴代2位の通算527勝を達成。2021年、北海道日本ハムファイターズ監督を退任。2022年、侍ジャパン監督に就任。
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