何年ぶりだろう、男の人の手に触れたいと思ったの――。
夫と離婚して数ヵ月後、匂いをかぎたい男（ひと）と出会った。
KADOKAWAから発売された『わたしが誰だかわかりましたか？』（著者：やまもとりえ）は、人を信じることに疲れ切っていたバツイチ子持ちの主人公が、同じバツイチの男と運命的な恋に落ちるストーリー。「人を信じること」の意味を問いかける、セミフィクションとなっている。
本作は「シリーズ立ち行かないわたしたち」の第1弾。「シリーズ立ち行かないわたしたち」とは、思いもよらない出来事を経験したり困難に直面したりと、ままならない人生を描くコミックエッセイの新シリーズだ。
海野サチ、42歳。先日シングルマザーになった。気持ちを切りかえるため、友人たちに話を聞いてもらうことにした。「そもそもなんで別れたの？」と聞かれ、「あ――...価値観の違い？」と答えると――。
「えっ 何それ それだけ？」
「それって耐えられないくらいなの？」
「それって夜のほうの？」
「いや...」
「もともと他人なんだから 価値観なんて違って当たり前 もっともっと大変な人もいるんだからさー」
こんなはずでは......。家に帰って子どもの世話をして、寝て、仕事に行く。42年間まじめにコツコツ、誰にも迷惑をかけずに生きてきたのに、手元に残ったのは親身になってくれない友人たちと、反抗期の息子と、息子を養うための仕事だけ。
そんなある日、サチは同じ部署の後輩からパーティーに誘われ、そこで素敵な男と出会った。
すれ違いざまにドンッとぶつかり、それがきっかけで知り合った川上さん。「実はぼくもバツイチです」と気さくに話してくる彼に、サチは一瞬で恋に落ちた。
「昔からあなたのこと知ってたみたいな 不思議な感覚」「初対面でこんなに楽しいこと あまりなくて」と甘い言葉を囁いてくる。サチは完全に夢中だった。「何年ぶりだろう 男の人の手に触れたいと 思ったの」
名刺はもらったけれど仕事用のアドレスに私用メールを送るわけにもいかないし、後輩に相談して「40過ぎの色ボケババア」と思われたくもない......。そこへ、なんと川上さんからメールが。
「いや～～ん こまる～～」。喜びを抑えきれず、笑みがこぼれるサチ。「今日は空がキレイだな――」と思いながら、薔薇色の気分で家に帰った。
サチは毎日のように川上さんとメールのやりとりをしていた。夕飯の支度中も食事中も、息子からの「？」という視線などお構いなしに、スマホ画面に釘付け。休日は充電がなくなるまでメールした。「こんなにときめく恋って いつぶりなんだろ いや むしろ初めてでは？ やだー ちょっともぉ―― 40代で初恋て」
はしゃぎまくり、完全に「色ボケババア」になった頃。サチは2人のやりとりが微妙に食い違っていることに気づく。出会った日のことを、川上さんはあまり覚えていないようだった。運命を感じたのは私だけで、向こうはそうでもなかったのかなと、少しへこむ。
川上さんとのことを友人に話したところ、「もうヤッた？」と単刀直入に聞かれた。「プラトニックな関係なんですぅ～～」と返すと、友人はこんなことを言った。
「気をつけなね 『私 今 中学生みたいな恋してる』とか言ってる奴 だいたい不倫してるから 相手に奥さんがいないことを 祈ってますね」
「は？」と思いつつ不安になったサチは、「今から会えませんか？」と川上さんにメールを送る。すると、娘の習い事で時間がとれないとの返事が。それなら仕方ないか。でも、先週は充電がなくなるまでメールをしていたような......違和感を覚える。
40歳を過ぎての恋、反抗期の息子、産婦人科に通う友人。人を信じるとは、信じた人に裏切られるとはどういうことなのか。スマホ越しの恋の先に待つ真実。そして、ままならない日々を送るサチの物語の結末はいかに――。
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