(イベント名)SPBS BOOKTALK FESTIVAL
渋谷の文化村通りからオーチャードロードを過ぎ、「奥渋谷」の商店街を歩いていくと、ガラス張りのおしゃれな本屋が見えてくる。「出版する本屋」、SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(以下、SPBS)本店だ。
2023年1月に開業15周年を迎えた同店では、虎ノ門、豊洲の各店舗とともに、歌人の穂村弘さん、ブックディレクターの幅允孝さん、文筆家の佐久間裕美子さんなど、店にゆかりのあるブックラバーを迎え、さまざまなブックトークイベントを開催している。
今回は、1月24日に行われた、人気校正者の牟田都子さんによるブックトーク、「本屋の歩き方・本の選び方」の模様をリポートする。
牟田都子さんは1977年生まれ、図書館員を経て出版社の校閲部に勤務し、2018年から個人の校正者として活躍している。昨年、エッセイ集『文にあたる』(亜紀書房)を刊行。言葉との向き合い方や書物への思いが綴られた本書から、牟田さんの誠実な人となりや仕事への情熱がうかがえて、記者もすっかりファンになってしまった。
旅先ではかならず書店を訪れるという牟田さんの本屋&読書遍歴とは――。
子どもの頃、牟田さんにとって「本屋」といえば地元の商店街にある小さな書店だった。ところが大好きな『風の谷のナウシカ』などのシリーズ物は全巻そろっていないこともしばしば。取り寄せを頼むと「数週間かかる」と言われることもあり、大きな書店への憧れがあったという。
本屋に興味を持ち始めたのは20代のころ。一人暮らしを始めた神奈川県相模原市の橋本には、青山ブックセンターとヴィレッジヴァンガードという「一般的な本屋さんとはかなり違うタイプ」の書店があった。マニアックな選書や、本に関連する雑貨を一緒に販売するなど、いずれもこだわりの店づくりが特徴だ。
青山ブックセンターで出合ったのが、雑誌「オリーブ」の料理ページなどで有名な堀井和子さんの『アァルトの椅子と小さな家』。当時は堀井さんのことを知らなかった牟田さんだが、「きれいだなと感じて、吸い寄せられるように手に取って中を見ました。何の本かはよくわからないけれど気になって、迷った末に購入しました」と語る。
書店での「惹かれるものとの偶然の出合い」を初体験した牟田さん。30歳で校正の仕事を始めると同時に、憧れの街・吉祥寺に引っ越した。本屋が多い街で牟田さんをとくに惹きつけたのが「百年」という古書店だ。古本だけでなくリトルプレス(個人や少人数による少部数発行の出版物)や新刊も扱う店で手に取ったのが、夏葉社から復刊された関口良雄の随筆集『昔日の客』だった。夏葉社の新刊が出るたびSNSがざわついていたので「手に取らないわけにいかなかった」と言う。以来、夏葉社の本は欠かさず買っていたが、「正直、当時の私には良さがわからなかったんです」と明かす。
「でも、いま読むとしみじみと面白い。40代半ばにしてやっと読めるようになったと思うとすごく感慨深いです。今日、皆さんにお伝えしたかったことの一つは『いま読めないからといって諦めないで』ということです。5年、10年経ったら面白いと感じるかもしれないし、その日の気分やコンディションで読めないこともありますし。だから、誰が何と言おうと、いま自分が面白いと思う本を、堂々と楽しんでいただきたいです」
ご当地マラソンに参加するのが趣味だという牟田さん。2012年に京都マラソンを走った時、恵文社一乗寺店を訪れたことをきっかけに、旅先での本屋めぐりにハマった。同店は、今でいう「文脈棚」の先駆けで、一般的な書店のように文芸書・ビジネス書・文庫本・児童書...といった分類ではなく、関連する「文脈」に沿って書籍が並べられている。インテリアや伝統工芸、手仕事などのジャンルが好きで、「今どんな本が出ているかだいたい把握している」という牟田さんも、「インテリアの本を見つけたと思ったら、その隣に知らない本が突然姿を現すので、棚を見ているだけで飽きなかった」と言う。以来、書店に行くと「棚を見る」という楽しみ方をするようになった。
そうして訪ね歩いた各地の本屋で見つけた本の中でいちばん大事にしているのは、名古屋の古本屋、シマウマ書房で購入した『本をつくる者の心 造本40年』(藤森善貢 著)だ。岩波書店で『広辞苑』や『日本古典文学大系』などの本づくりに携わった著者が綴った"造本ドキュメンタリー"。1986年に刊行された作品で、新刊ではもう手に入らない。牟田さんはそこで「まだ全然知らない本があるという喜び」を知ったという。
「タイトルさえわかっていれば、オンライン書店から図書館、フリマアプリにオークションサイトまで、ありとあらゆる手段を使って検索するのですが、『知らない本』というのは探せない。シマウマ書房に行くまで、こんな面白い本があるとは全く知りませんでした」
そんな牟田さんが、初めて行く本屋に入るときに一つだけ、決めていることがあるという。それは、「絶対に何か一冊買って帰る」ということだ。
「何か買うぞと思ったら真剣に探しますよね。時には、自分の興味関心のあるジャンル以外の本でも、買って読んでみたらすごく面白かったということも。チェーン店でも地域や広さによってラインアップが違いますし、本屋さんってどこに行っても何かしら発見があります」
さらには行きつけの本屋やブックカフェのこと、本をつくる人たちと直接話ができるブックフェスのこと、ミュージアムショップで見つけた「掘り出し本」のことなど、本と本屋を愛する牟田さんならではの楽しみ方を惜しげもなく披露。10年に一度の最強寒波に見舞われたこの日は都内もかなり冷え込んだが、SPBS本店では熱のこもったトークが繰り広げられた。
SPBSでは2月12日(日)まで、「みんなで、本の話をしよう。」をテーマとした本の祭典「SPBS BOOKTALK FESTIVAL」を各店舗とオンラインで開催している。同期間、ハッシュタグ「#本の力を感じた一冊」をテーマにSNS投稿キャンペーンを実施し、オンラインでも本の話ができる場をつくる。また、各店舗では牟田さんを始め、本を愛するゲストが選書した「#本の力を感じた一冊」ブックフェアを開催中だ。
「SPBS BOOKTALK FESTIVAL」特設サイト https://www.shibuyabooks.co.jp/event/9334/
■牟田都子さんプロフィール
むた・さとこ/1977年、東京都生まれ。図書館員を経て出版社の校閲部に勤務。2018年より個人で書籍・雑誌の校正を行う。2022年8月に校正エッセイ集『文にあたる』(亜紀書房)を上梓。共著に『あんぱん ジャムパン クリームパン 女三人モヤモヤ日記』『本を贈る』など。
■SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(SPBS)
2007年(2008年、SPBS本店開店)創業の本と編集の総合企業。人とモノと情報が行き交い文化が育まれる場所となるため、6つの事業(店舗運営、出版物の制作・販売、WEBコンテンツ制作、広告物制作、スペースレンタル、イベント企画運営)と2つのブランド(SPBS、+SPBS)を運営している。公式ホームページ:https://www.shibuyabooks.co.jp/
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