読み聞かせボランティア17年のミモザさんがおすすめの絵本を紹介するシリーズ、「ミモザの読み聞かせ絵本」は、今回で最終回です。
第10回のテーマは、「こんにちは文学」。子どもの読書体験は絵本から始まり、大人になるにつれて、長い本・難しい本・大人になって初めてわかるような本へと世界が広がっていきます。いつかきっと触れるようになる「文学」の世界の、入口となってくれる絵本をご紹介しましょう。
『吾輩は猫である』
夏目漱石 文、武田美穂 絵、齋藤孝 編/ほるぷ出版
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
日本近代文学の大名作が、全文ルビつきの絵本になっています。夏目漱石の文章はそのままに、テレビ番組などでもおなじみの教育学者・齋藤孝さんが抜粋して編集しました。近所の猫との交流や、猫だけが知っている人間の秘密など、日常の場面があたたかくわかりやすくまとまっています。小学校低学年で初めて触れる「漱石」として、ぜひ。
そして、小学校高学年になったら、自分の力で「漱石」を読んでみるのはどうでしょう? 講談社の児童文学レーベル「青い鳥文庫」の『吾輩は猫である』(上・下)なら、全文ルビつき、わかりやすい注つきで、子どもでも一人で読むことができます。実はミモザさんも、青い鳥文庫で全編読破したそうです!
『ひみつのカレーライス』
井上荒野 作、田中清代 絵/アリス館
直木賞作家・井上荒野さんが手がけた絵本です。フミオがカレーライスを食べていると、口の中でガリッ。小さな黒いつぶが出てきました。お父さんが言うには、これは「カレーライスの種」。庭に埋めて水をかけると、木が生えてきて、お皿の葉っぱが生えて、カレーの実とライスの実ができて......。
公民館でのカレー作りイベントのときに読み聞かせたというミモザさん。この絵本、子どもたちに大人気なんだそうです! ページをめくるたびに、びっくりとわくわくが止まりません。
和服でメガネをかけていて、奇想天外なことを大真面目に言うお父さんは、井上荒野さんの父で小説家の井上光晴さんにそっくり......? なんていう視点からも楽しめます。
『急行「北極号」』
C.V.オールズバーグ 絵と文、村上春樹 訳/あすなろ書房
『ポーラー・エクスプレス』(2004年公開)として映画化もされた、名作絵本。翻訳したのは、言わずと知れた大人気小説家・村上春樹さんです。
ずいぶん昔、まだ子どものころ、クリスマス・イブの夜中に、ぼくは静かにベッドに横になっていた。シーツのすれるこそりという音さえたてなかった。ゆっくりと静かに息をし、耳を澄ませ、ある音が聞こえてくるのをじっと待っていた。サンタのそりの鈴の音が、ちりんちりんと鳴り響くのを。
絵本で"ハルキ・ムラカミ文学"の文章を贅沢に楽しめます。クリスマス・イブの夜に「ぼく」を迎えに来たのは、そりではなく、真っ白な蒸気に包まれた汽車「北極号」。子どもたちを乗せた「北極号」の、幻想的な旅が始まります。
この絵本にまつわる、ミモザさんの読み聞かせエピソードは?
「毎年クリスマスの時期に、小学5、6年生の教室で読み聞かせます。みんなシーンとなって聞いてくれますね。絵本の最後に、『ぼく』が持ち帰った鈴の音を聞くシーンがあるんですが、読み聞かせが終わったとき、家から持ってきた鈴をこっそりちりんと鳴らすというパフォーマンスをするんです。子どもがにやっとしてくれると嬉しいですね」
『はじまりの日』
ボブ・ディラン 作、ポール・ロジャース 絵、アーサー・ビナード 訳/岩崎書店
最後は、2016年に歌手として初めてノーベル文学賞を受賞した、ボブ・ディランさんの絵本。「Forever Young」という曲の歌詞に絵をつけ、一冊にしたものです。日本語版は、広島市在住の詩人アーサー・ビナードさんが訳を手がけ、『はじまりの日』というタイトルになりました。
原曲は、ボブ・ディランさんが息子を思って作った歌。若い心をもち続けて、まっすぐ成長していきますようにという願いが込められています。
きみが 手をのばせば
しあわせに とどきますように
きみのゆめが いつか
ほんとうに なりますように
まわりの 人びとと
たすけあって いけますように
星空へ のぼる
はしごを 見つけますように
毎日が きみの はじまりの日
きょうも あしたも
あたらしい きみの はじまりの日
ミモザさんはこの絵本を、6年生が卒業する前の、最後の読み聞かせの時間に読むのだそうです。絵本の言葉に背中を押されて、子どもたちが明るい未来へ歩んでいきますように!
「ミモザの読み聞かせ絵本」シリーズは、これでおしまいです。全10回、いろいろなテーマで絵本を紹介してきましたが、お気に入りの絵本は見つかりましたか? ぜひお子さんと一緒に絵本をひらいて、心豊かな読み聞かせ時間を楽しんでくださいね。
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