「『最近の小説はつまらないなぁ』と思っている人、必読。」
文藝評論家・小川榮太郎(おがわ えいたろう)さんの『作家の値うち 令和の超(スーパー)ブックガイド』(飛鳥新社)は、「現役作家の書いた面白い小説」を探すためのガイドブック。
現役作家100人、主要505作品を、<厳正>かつ<徹底的>に100点満点で採点する。「99点」から「マイナス90点」、さらには「採点不能」まで。思った以上にシビアな評価で驚いた。
「私が本書で目指したのはごく簡単なことだ。素人レベルの作家や仕事と、プロのそれを、まずは弁別すること。(中略)普通の読者として面白いと感じられる作品を面白いとはっきり認定すること。それに尽きる。騙されたと思って、私が高得点をつけた小説を三冊、五冊、読んでみてごらんなさい。読者が期待を裏切られることは、そうはなかろうと、私は自負する」
エンターテイメントと純文学から、それぞれ50人の現役作家を評価している(本書の準備中、刊行後に逝去した作家を含む)。本書に登場するのは以下の100人。
■エンターテイメント編
朝井まかて/朝井リョウ/浅田次郎/安部龍太郎/有川ひろ/有栖川有栖/池井戸潤/伊坂幸太郎/石田衣良/伊集院静/上橋菜穂子/冲方丁/大沢在昌/荻原浩/奥田英朗/小野不由美/恩田陸/角田光代/北方謙三/北村薫/京極夏彦/桐野夏生/小池真理子/佐々木譲/佐藤亜紀/重松清/篠田節子/島田荘司/島本理生/白石一文/住野よる/髙村薫/辻村深月/天童荒太/中島京子/西加奈子/乃南アサ/馳星周/原田マハ/東野圭吾/東山彰良/姫野カオルコ/百田尚樹/三浦しをん/湊かなえ/宮城谷昌光/宮部みゆき/森見登美彦/山本一力/横山秀夫
■純文学編
青山七恵/阿部和重/池澤夏樹/石原慎太郎/絲山秋子/今村夏子/江國香織/大江健三郎/小川洋子/奥泉光/鹿島田真希/カズオ・イシグロ/金井美恵子/金原ひとみ/川上弘美/川上未映子/佐伯一麦/島田雅彦/笙野頼子/髙樹のぶ子/高橋源一郎/田中慎弥/多和田葉子/辻仁成/辻原登/筒井康隆/中沢けい/長嶋有/中村文則/西村賢太/羽田圭介/平野啓一郎/古井由吉/保坂和志/堀江敏幸/又吉直樹/町田康/松浦寿輝/松浦理英子/水村美苗/宮本輝/村上春樹/村上龍/村田沙耶香/本谷有希子/山田詠美/柳美里/吉田修一/リービ英雄/綿矢りさ
評価基準は以下のとおり。505作品中、70点以上は183作品。文学賞の受賞作であれベストセラーであれ、高得点とは限らない。読んでいてはらはらどきどきするレベルの酷評もちらほら......。
【評価基準】
90点以上:世界文学の水準に達している作品
80点以上:近代文学史に銘記されるべき作品
70点以上:現代の文学として優れた作品
60点以上:読んでも損はない作品
50点以上:小説として成立している作品
49点以下:通読が困難な作品
39点以下:人に読ませる水準に達していない作品
29点以下:公刊すべきでない水準の作品
このようななか、今月1日に89歳で亡くなった石原慎太郎さんについては、「現存するなかで最も豊かな『物語る力』を持った作家である。(中略)生きる意味に直接体当たりする生き方がそのまま死を辞さぬありようが文体に直接漲っている」と高く評価している。
評価の全容は本書に譲るが、最高評価の99点は、カズオ・イシグロさんの『忘れられた巨人』だった。イシグロさんについては、「言葉が確かな力で生まれ、立ち上がり、読者の周囲を濃密なエーテルで充たし、私たちの時間の中に入り込んでくる。掛け値なしに偉大な作家と呼んでいい」と賛辞を贈っている。
一方で、昨年ベストセラーとなった東野圭吾さんの『白鳥とコウモリ』は60点。過去作の『白夜行』(81点)や『容疑者Xの献身』(80点)と比べると20点のひらきがある。小川さんは東野さんを「抜群に上手い天性の作家だが、構想力や整理能力が高すぎて、人間の業に迫る筆の雑味や粘りに乏しい」と評している。
さらに、湊かなえさんの『告白』は59点、村上春樹さんの『1Q84』は42点、宮部みゆきさんの『理由』は35点と、かなり辛口な点数がつけられている。
本書は、2000年に刊行された福田和也さんの『作家の値うち』の現代版。同書は当時、文壇を牛耳っていた大御所を片っ端から厳しく論評して話題をさらったという。
小川さんは「この20年ほど、年を追う毎に、現役小説家の平均的な創作水準が下落しつつある」と書いている。文学の社会的地位の大幅な低下、人材難、書籍収益の激減が悪循環し、「駄作の濫造という悲しい事態」が進行している、とも。
「本書に対するいかなる反発、批判も甘受するが、私は何を言われようと、あるいは黙殺されようと、文化の殺戮をこれ以上看過することはできない」
本書の目的は、単に作家・作品を批評することではない。「素晴らしい作家や作品の発掘の一助たり得ること」を、著者は願っている。
さて、自分の好きなあの作家・あの作品はどう評価されているのか。読者がいちばん気になるのはそこだろう。興味のあるページをチェックしながら、知らなかった作家・作品も目に留まる。
本書を読めば、読書欲を刺激され、読書の幅が広がること間違いなし。ぜひ、あなたにとっての「最高の1冊」と出会ってほしい。
■小川榮太郎さんプロフィール
文藝評論家。1967年、東京都小金井市に生まれる。大阪大学文学部美学科(音楽学専攻)卒業、埼玉大学大学院修士課程修了。大阪大学在学中に文芸同人誌「一粒の麥」を発刊・主宰し、文芸批評や社会批評を多数発表。同誌の寄贈を通じて福田恆存、音楽評論家の遠山一行の知遇を得、両者に私淑。1998年下期、文藝春秋の文芸雑誌「文學界」の新人小説月評を担当。2003年、「川端康成の『古都』」が遠山一行の推薦により、第35回「新潮新人賞」評論部門の最終候補となる。以降、主に政治の分野で批評・文筆活動を行い、2015年、一般社団法人日本平和学研究所を設立し理事長に就任、現在に至る。著書に『小林秀雄の後の二十一章』『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)、『フルトヴェングラーとカラヤン 』(啓文社書房)など多数。本書『作家の値うち』の上梓をもって、文芸評論活動に本格復帰した。
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