『ポーの一族』、『トーマの心臓』など文学性に富んだ世界観があらゆる年代に人気の萩尾望都さん。少女漫画の神様とも呼ばれる彼女を特集するファン待望の1冊が5月25日に発売される。
『別冊NHK 100分de名著 時をつむぐ旅人 萩尾望都』(NHK出版)は、萩尾望都さんを語るうえで欠かせない5作品を、彼女の熱烈なファンである評論家や作家が深く掘り下げていく。2021年1月2日に放送されたNHK番組「100分de萩尾望都」をもとに追加構成して、ムック化したもの。
本書の構成は以下の通りだ。
巻頭カラー口絵8ページ
はじめに――ここではない、どこかへ!(番組プロデューサー 秋満吉彦)
第1章 『トーマの心臓』 小谷真理――究極の愛と、解放される魂
第2章 『半神』『イグアナの娘』 ヤマザキマリ──実存の命題に迫る 母娘の寓話
第3章 『バルバラ異界』 中条省平──現代の巫女が生みだした SFの枠を超える傑作
第4章 『ポーの一族』 夢枕 獏──ひとりではさびしすぎる 新たな旅の始まり
萩尾望都先生へリクエスト!(4人の論者からのメッセージ)
萩尾望都スペシャルインタビュー
萩尾望都 略年譜
第1章では、『トーマの心臓』をSF&ファンタジー評論家の小谷真理さんが、第2章では『半神』、『イグアナの娘』を漫画家・エッセイストのヤマザキマリさんが、第3章では『バルバラ異界』をフランス文学研究者・翻訳家で学習院大学教授の中条省平さんが、第4章では『ポーの一族』を作家の夢枕獏さんが読み解いていく。
巻末のインタビューでは、13ページにわたる萩尾望都さんのスペシャルインタビューを収載。幼少期の思い出から漫画家を志したきっかけ、本書で取り上げた5作品や最新作への想い、意外な真相までが語られる。ファンの方には気になるトピックばかりだ。
本書で紹介した5つの作品を、評者たちがどう読み解いたのか。一部を紹介する。
『トーマの心臓』(1974) 解説:小谷真理さん(SF・ファンタジー評論家)
ドイツのギムナジウムの少年たちの愛憎劇。「とても難解だと」される本作の、「わからなさこそが魅力」だと小谷真理さんは説く。少年を描くことで、当時の少女たちは「女の子らしさ」から解き放たれた自由な世界や知的な美しさを、萩尾作品から得られたのだとも。様々な愛の形を考え、SFとして読み解くことで、抑圧されている人たちへの助けにもなると示す。
『半神』(1984)・『イグアナの娘』(1992) 解説:ヤマザキマリさん(漫画家・エッセイスト)
母娘の葛藤を描く短編2作に、「世間が求めるかたち」と「ほんとうの自分」の乖離の問題を読み解いたヤマザキマリさん。漫画家として多大な影響を受けた萩尾さんへのトリビュートとして特別描きおろしイラストも収載!
『バルバラ異界』(2002~2005) 解説:中条省平さん(フランス文学研究者・翻訳家)
夢と現実、過去と未来が交錯するミステリー仕掛けの群像劇。遺伝子操作や集合的無意識、カニバリズムまで取り込んだ日本SF大賞受賞作の今日的意義を、幅広い文化評論でも活躍する中条省平さんは、優れたヒューマンドラマでありながら、全体主義化、反知性化に警鐘を鳴らす社会批評としても読み取った。
『ポーの一族』(1972~) 解説:夢枕獏(作家)
永遠の14歳として生き続ける少年吸血鬼(バンパネラ)の大長編。夢枕獏さんは、萩尾作品を、読むことで「魂が透明になる」と評している。物語の展開が複雑な『ポーの一族』について、その設定の卓抜さの数々を、小説家ならではの視点で賞賛しつつ、様々に解釈ができることを、作品と読者の関係として「美しい誤解」だとも肯定する。また、40年ぶりの「復活」を促した経緯も語られる。
萩尾望都作品では、少女漫画の恋愛要素に加え、実存、不条理、魂の救済、差別、家族の相克など、普遍的な哲学的命題が示されている。
BOOKウォッチでは、萩尾望都さんのエッセイ『一度きりの大泉の話』も紹介している(『ポーの一族』萩尾望都、「人間関係失敗談」を明かす)。
今回紹介された作品の制作過程で萩尾さんの身に起きたことなど、これまで語られなかった裏話が自身の言葉で綴られている。あわせて楽しみたい。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?