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BL(ボーイズラブ)の原点は東京・練馬の「大泉サロン」にある

萩尾望都と竹宮惠子

 少女マンガにあまり詳しくない人でも萩尾望都と竹宮惠子の名前は聞いたことがあるだろう。萩尾は、代表作『ポーの一族』などで知られ、2019年には女性マンガ家として初めて文化功労者に選ばれた。一方の竹宮は2000年に京都精華大学マンガ学部マンガ学科教授に就任し、学部長を経て14年から4年間、学長を務めた教育者でもある。この二人が女性版トキワ荘とも言える東京・練馬区の二軒長屋で同居していたことは、あまり知られていないだろう。本書『萩尾望都と竹宮惠子』(幻冬舎新書)は、二人を軸に少女マンガの革命がいかに達成されたかを描いたマンガ史である。

 著者の中川右介さんは、1960年生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。出版社勤務の後、アルファベータを設立、代表取締役編集長として、雑誌「クラシックジャーナル」ほか、音楽家や作家の評伝などの編集、出版を手掛けた。現在は作家として多彩なジャンルで歴史に光を当てている。著書に『手塚治虫とトキワ荘』、『江戸川乱歩と横溝正史』などがある。

女性版トキワ荘

 本書にも手塚治虫は補助線として何度も登場する。手塚をはじめ、石ノ森章太郎や赤塚不二夫らが暮らしたトキワ荘は有名だが、同じ西武池袋線沿線の大泉学園駅にあった二軒長屋の一軒に1970年、萩尾と竹宮は暮らし始めた。マンガ家のタマゴたちが集い、後に「大泉サロン」と呼ばれた。

 本書では1949年に福岡県に生まれた萩尾と1950年に徳島県に生まれた竹宮の生い立ちに始まり、マンガ家を夢見た学生時代、雑誌への投稿、編集者との出会いからデビューと伝記的記述を押さえながら、戦後のマンガの歴史をたどっている。

「よど号」事件直後の出会い

 なんと言ってもハイライトは二人の出会いだ。1970年3月、赤軍派による日航機「よど号」ハイジャック事件があり、その直後の4月、当時徳島大学教育学部の学生だった竹宮は、連載の締め切りに間に合わなくなり、東京の出版社に呼び出されていた。同じ年くらいの新人が編集部に来ていると紹介され、仕事を手伝ったのが二人の出会いだった。

 その後、萩尾の友人で大学浪人生の増山法恵と竹宮は親しくなり、二人は増山の自宅近くの二軒長屋の一軒に入居する。竹宮の自伝からの引用はこう書かれている。

 「あなたと萩尾さんがいれば完璧! 絶対いろんな人が集まってくるよ。保証する」

 キャベツ畑のそばの築30年は経っていそうなボロボロの建物だったが、マンガ家のタマゴの女性たちが出入りし、熱くマンガを語り合った。

 萩尾は『11月のギムナジウム』小学館文庫版あとがきに、こう記している。

 「下宿には入れかわり立ちかわりまんが家の卵やその友人やらの出入りがあって、年ごろの乙女が多く、賑わっていた。賑わい過ぎて、時々近所から苦情が出た。仕事が詰に入ると、家はタコ部屋、万年床に資材が散らばり足も踏めぬ」

 この時期、竹宮は日本初の「少年愛マンガ」、『雪と星と天使と...』(後に『サンルームにて』)を「別冊少女コミック」に掲載するが、スランプを迎える。一歩、萩尾は快進撃を続け、後の『トーマの心臓』の原型となる『11月のギムナジウム』や『ポーの一族』などの代表作を発表する。

ヨーロッパへの「卒業旅行」

 72年9月、3人に山岸涼子を加えた4人でヨーロッパ大旅行に出かける。萩尾も竹宮も「ヨーロッパには一度も行かずに、ヨーロッパを舞台にしたマンガを描いていた」。これが45日間の「卒業旅行」となった。

 帰国すると、大泉サロンの契約更新の時期で、誰も反対せず解散は決まった。本書では竹宮の胸中について詳しく書いている。

 少女マンガの革命を唱えた増山は竹宮と暮らし、マネージャーやブレーンとして協力する。もともと萩尾の友人だった増山。相当な葛藤があったようだ。

「少女マンガ革命」の成果

 大泉サロン時代とその後の二人の作品にふれ、2人が競い、実現した「少女マンガ革命」の成果について、以下のようにまとめている。

 ・主人公は少女が大前提なのに「美少年」にした
 ・ラブコメ全盛期に「少年の友情と性愛」を描いた
 ・お目めに星、バックに花といった少女マンガのパターンを粉砕
 ・登場人物の繊細な「内面描写」にも踏み込んだ
 ・女には描けないものとされた「SF」と「歴史もの」も成功させた
 ・マンガは、歴史も科学もエッセイも、なんでも表現できると証明した

 たいへん充実した意欲作である。ほかの女性マンガ家や手塚治虫の動向にもふれながら書かれているので、少女マンガの全体像が浮かび上がる叙述になっている。BL(ボーイズラブ)が、少女マンガに止まらず、テレビや映画など映像作品にも大きな影響を与えている今、多くのクリエーターに読んでもらいたい一冊だ。

  

  • 書名 萩尾望都と竹宮惠子
  • サブタイトル大泉サロンと少女マンガ革命
  • 監修・編集・著者名中川右介 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2020年3月25日
  • 定価本体940円+税
  • 判型・ページ数新書判・349ページ
  • ISBN9784344985865
 

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