「小説現代」(講談社)の2020年11月号には、第15回「小説現代長編新人賞」の2次選考通過作品と1次選考通過作品の講評が掲載されている。
これまで、五木寛之さん、伊集院静さんなど、数多くのベストセラー作家を生み出してきた小説現代新人賞。この賞を目標に書き続ける人も決して少なくはない本格的な文学賞の一つだ。
「小説現代長編新人賞」は、分量と筆力が求められる。400字詰め原稿用紙で250枚から500枚の長編小説が対象で、賞金はなんと300万円。小説誌の新人賞としては最高額。
しかも、受賞作は講談社から単行本になるから、デビューも約束されている。
本書(11月号)には、2020年7月31日に締め切られた第15回「小説現代長編新人賞」の、2次選考通過作品16編のタイトルと1次選考通過作品125編の講評が掲載されている。
本稿では特に、1次選考通過作品125編の講評に注目したい。
講評は、選考委員による応募作品への意見や印象やアドバイスが述べられているから、作者本人にとっては、まぎれもない今後の糧になる内容だろう。しかし、第三者として読んでも、一つの読み物として内容に引き込まれるものがあった。
本書では、12ページにわたって1次選考通過作品125編の講評が掲載されている。分量的にはおよそ17000字程度はあるだろう。それでも、一気読みしてしまった。
講評には、作品独特の「物語設定の不自然さ」、長編としての「飽きさせない構成の不足」、技術的な部分で、意図の感じられない「同じ語句の反復」、「オリジナリティの不足」、「人称の表現のズレ」など、次に生かす改善点が並ぶ。
ただし、それだけにとどまらないのが講評の魅力だろう。
「テンポの良さ」「斬新な着目点」「シンプルなテーマなのに読ませる文体」「情報の出し入れの上手さ」など、実績のある選考委員が高く評価するポイントが興味深い。これらの作品は、間違いなく魅力的で、あと一歩、物語として練られていれば、違った結果を得ていたかもしれない。そんなことも連想してしまう。
ネタバレになるので詳細は割愛するが、物語自体を読んでいないのに、講評を読むだけでストーリーが伝わってくるものも少なくない。短い講評テキストの中で読み手に伝える情報量のコントロールは、選考委員の実績あってこそ出来る技なのだろう。
本書(11月号)を読んで、「講評」自体が、小説雑誌の魅力の一つであることを再認識させられた。
講評は、「作者の糧として」だけでなく、文学賞にチャレンジする方の「教科書として」だけでもなく、評者から発しているので「評者だけのもの」でもない。そして読み物としても愛情あふれた秀逸さがある。
講評は、いったい誰のものなのだろう。
読者のみなさんは、どう感じますか? 関心を持たれた方は、「小説現代」458ページからの「講評」をご覧いただきたい。
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